5章 第10話 死霊魔術(ネクロマンス)③

 円香は一昨日占い師に出会った場所へと駆け足で向かっていた。理由が理由とはいえ、それを告げずに明と絵理の誘いを断ったのは、円香にとっても気がかりだった。少し感じが悪かったかもしれない。

(明、絵理ごめん。明日必ず話すからね)


 一昨日と同じ場所に来ると、同じように占い師が待っていた。彼女は円香に気がつくと、優しげに微笑む。

「お待ちしておりましたよ」

「こ、こんにちは。あの、両親に会わせて下さい」

 円香は上がった息を整えながら、占い師に頭を下げる。少しの沈黙の後、占い師が答えた。

「今回からは料金が発生しますが...よろしいですか?」

「あんまりお金はないです。でも、払える料金なら払います」

 円香が力強く言うと、占い師は感心した様子で人差し指を立てた。

「あなたの強い想いを感じました。千円頂ければ、また死霊魔術を使って差し上げますよ」

 もっと高い金額を予想していた円香は、ホッとした様子で財布から千円札を取り出した。

「ありがとうございます..。私には両親に伝えなきゃいけないことがあるんです」

 占い師は千円を受け取ると、右手を円香の頭へと伸ばす。占い師が頭に触れると、円香は前回と同じように目を瞑る。

「私の声が聞こえなくなるまで、目を閉じたままでいてください」

 円香は頷くと、期待に高まる気持ちを落ち着かせるように、深呼吸をした。耳からは、占い師が何やら唱えているのが聞こえてくる。



 何分経っただろうか。前回とは違い、いつまで経っても占い師の声が遠くなることはなかった。円香が恐る恐る目を開けると、周りに変わった様子はない。

「な、なんで?」

 疑問を口にする円香に気がついたのか、占い師が顔を上げる。

「なっ...!?」

 しかし、驚いたのは彼女も同じだった。魔術によってぼんやりと光っている自分の手と円香の顔を交互に見る。円香の様子から、魔術にかかっていないのは明らかだった。

「す、少しお待ちを。何か原因があるのかもしれません」

 占い師はそう言うと、机の下から大きな本を取り出す。そして本の中身のあるページを開くと、何か納得した様子で口を開いた。

「申し訳ありません。今日は星の位置が悪かったようです。死霊魔術は星と魂、そしてあなたの想いのバランスによって為せる魔術ですので...」

 占い師が空を指差すと、円香もそちらに顔を向ける。まだ日は沈んでいないため、その空に星が見えることはなかった。

「代金はお返しします。また明日にしましょう」

「そう...なんですか」

 円香は納得のいっていない様子で、返された千円札を受け取る。星の位置などと言われてもピンと来ないが、できないと言われてしまってはどうしようもない。

「ありがとうございました。また明日来ます」

 円香は少し元気なくお礼を言うと、自宅の方へと帰って行った。



(なんなんだあの女子高生は!なぜ私の魔術にかからない?)

 すっかり日が沈み暗くなった中、占い師は机に拳を叩きつける。先ほどの星の位置の話は当然言い訳だった。

「いやぁ星の位置は傑作だった。言い訳用にそれっぽい本まで用意してるとはな」

 すると、怒りで震える占い師の元に、誰かが笑いながら近づいて来た。

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