5章 第9話 幼馴染と気がかり③
子どもの中には迷子になってしまった時、自分が親に見捨てられてしまったと思い込んでしまう子がいる。自分が悪い子だから、置いていかれてしまったのだと。もちろん、大半はただはぐれただけで、親も子も必死に相手を探そうとする。
事件後に両親の死を知った円香がまず思ったのは、そんな迷子の子どものようなことだった。
「私がしっかりした子じゃなかったから、2人は私を置いて天国に行っちゃったんだ」
「...ん?」
円香が顔を上げると、もう外は明るくなっていた。辞書片手に死霊魔術の本を読んでいるうちに寝てしまったようだ。円香は上半身を起こして大きく伸びをすると、半開きの目を擦った。
(難しくて途中で眠くなっちゃったんだっけ。ダメだなぁ)
円香は机の上に重ねられていた本に目をやる。彼女は1冊を頑張って読み切り、2冊目に入ってすぐに力尽きていた。
(今日占い師の人に会う前に、ちょっとは理解しておきたかったんだけど...。でも、1冊読んでも結局よく分からなかった)
円香はため息をつく。辞書片手とはいえ、普通の女子高生が理解できるものではないが、自分の理解できないものをあてにしようとするのに、不安がないといえば嘘だった。
(剣次くらいには話しておこうかな...。いやいや、下手に心配かけちゃう。これは私の問題なんだから)
放課後になると、昨日と同じようにすぐ帰り支度をする円香に、明が飛びつく。
「まっどかー。逃がさんぞ!タピろうぜ!」
明の後ろを着いてきた絵理が続けた。
「もうすぐ冬休みだから、クリスマスの予定とか立てない?」
円香は一瞬手を止めるが、抱きついている明を優しく身体から剥がすと、申し訳なさそうに答える。
「ご、ごめん。今日も用事があるんだ。また明日で!」
そしてそのまま荷物を持って帰っていってしまった。残された明と絵理は、顔を見合わせる。
「やっぱ男か?」
明が手を顎に当てて探偵のように言うと、絵理は同意するように首を縦に振る。
「きっとそうだよ。じゃなきゃ理由も言わずにさっさと帰らないもん」
「いや、暇人の私らベースで考えるのもなあ。でも、仮に彼氏ならなんで私らに話してくれないんだろ...」
明が寂しげな顔をする。人によるが、2人は恋バナなど割とオープンにしていたからだ。
「円香って、大事なことあまり話してくれないよね。私たち信用されてないのかな。口は軽めだけど...」
2人は顔を見合わせてため息をつく。普段散々山神の件でからかっているのだ。もしかすると、それが原因なのではないかと2人には不安が過ぎる。
「明日もっかい話してみよ。モヤモヤしたままじゃクリスマスも年も越せなねーよ」
そもそも勘違いなのだが、日頃の行いを反省する明と絵理だった。
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