5章 第7話 幼馴染と気がかり

 養成校帰りに、山神と閃の間で話題になったのは期末試験のことだった。当然山神からは、円香が補習になってしまった話が出る。

「あら、それは意外ですね」

「ちゃんと勉強はしてるんだろうけどな。あいつ昔から数学はダメなんだよ」

「円香さんとは幼馴染でしたよね。いつから知り合いなんですか?」

 閃の問いに山神は少し考えた後に答える。

「あんまり覚えてないな。親が昔からの知り合いだったんだよ。気づいた時には、結構一緒にいたな」

「そうだったんですね。僕は幼馴染が居ないので羨ましいです。数学はさておき、しっかりしてるから、きっといいお嫁さんになりますよ」

 閃は意味深な笑みを浮かべて山神を見るが、閃の予想に反して、山神は難しい顔になった。黙ってしまった山神に対して、閃が気まずそうに口を開こうとした時、山神がゆっくりと話し出した。


「あいつさ、昔はお世辞でもしっかりしてるって言えない感じだったんだ。寂しがり屋だし、甘えたがりだし、1人で何かしてるのほとんど見たことなかったかもしれない。でも、おじさんとおばさん...円香の両親だな、2人が亡くなってからあんまり人に頼ろうとする姿を見てないんだよ」

 山神がひと息つくと、閃が代わりに口を開く。

「おふたりが亡くなったのは5年前でしたよね。魔特のエースが亡くなったのはかなり話題になったのを覚えています。剣次さんのお父さんもですが...。僕たちは10歳ですね。女の子はその頃から大人びてくるのでは?」

「...そうかもしれない。たまたまその時期に重なっただけかもな。でも人の本質ってそう簡単には変わらないだろ?いくら成長したって、なんでも1人でこなせるようにはならない。だから、少し気になるんだよ」

 あまり語られることのない山神の本音のようなものを、閃は真剣に聴いていた。

 大きな出来事が人を変えてしまうことは多いだろう。しかし、両親を失うマイナス過ぎる出来事は、果たして彼女にとってプラスの変化をもたらすのだろうか。近くで見てきた山神の違和感は、そこから来ているのかもしれない。

「それは剣次さんが円香さんに伝えてあげるしかないです。彼女の幼馴染は、剣次さんだけなんですから」

「そうだな。まあ、いつか伝えてみるよ」

 分かっていながらも、きっかけが掴めていないという様子だ。唐突に話をしても、きっとはぐらかされてしまう。



(それにしても、自分で思っている以上に剣次さんは円香さんのことを気にかけていますね。円香さんもきっと同じでしょう。その事に気づいてないのが難儀ですね。...もどかしい)

 実は恋バナの類が好きな閃は閃で、2人の関係が気になって仕方がなかった。

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