5章 第5話 死霊魔術(ネクロマンス)②

「目を閉じて亡くなったご両親のことを思い出してください」

 円香は疑いながらもゆっくりと目を閉じる。すると占い師が何かぶつぶつと唱えているのが聞こえてきた。魔術の詠唱だろうが、円香には何を意味しているのか分からない。だんだんとその声も小さくなっていき、周りには雑音がしなくなった。


 不思議に思った円香は、占い師に問いかける。

「...?目を開けても大丈夫ですか?」

 しかし返事はない。円香がゆっくりと目を開くと、目の前には先ほどとは違う風景が広がっていた。

「ここって...」

 家から少し離れた場所にある公園。幼い頃、両親とよく遊びに来ていた場所だ。

(なんか、すごい久しぶりに来たかも)

 円香にとっては両親との思い出が詰まっている場所だった。それだけに、2人が亡くなってから来ることができなかったのだ。


 円香がゆっくりと周りを見渡すと、遠くから楽しそうに歩いてくる家族の姿があった。父親と母親、そして2人と手を繋ぐ小さな女の子。スキップのつもりだろうか、ぴょんぴょんと飛び跳ねてとても楽しそうだ。その家族の姿に、円香の目からは涙がこぼれ落ちた。

「お父さん...。お母さん...」

 それは自分の両親だった。真ん中の女の子は、恐らく幼い頃の自分だ。どうやら自分の思い出を第三者として見ているようだった。


 もしかしたら話すことができるかもしれない。そんな淡い期待を持って、円香は自分の前を通り過ぎようとする家族に近づこうとする。しかし、歩みの遅いその家族にはなぜか近づくことができない。それどころか距離は離れる一方だ。

「ま、待って...!」

 全力で走っても追いつくことはできない。だんだんと3人の姿は見えなくなり、ふっと消えてしまった。




「戻り...ましたね」

 背後から聞こえた占い師の声に振り向くと、いつの間にか元の場所に戻っていた。円香は全力で走った後のような疲労感を感じる。

「会えた...ようですね」

「会え...そうでした。お父さんとお母さんと昔の私の姿が!もう一度魔術をお願いします。お金でもなんでも払いますから」

 しかし占い師は首を横に振る。よく見ると冬だというのに汗だくで、かなり息も上がっている。

「いえ、この魔術...かなりエネルギーを...。また後日にしましょう...」

 その言葉に興奮気味の円香も少しずつ落ち着いてくる。確かに魔術であの光景を見せてもらうとしたら、かなり魔力を消耗しそうだ。

「続きは2日後...明後日にまたこの場所に居ますので」

「分かりました。ありがとうございました」

 占い師が微笑むと、円香は頭を下げてその場を後にした。



 いつの間にか外は真っ暗になっていたが、円香の心には光が差し込んでいるかのようだった。

(もしかしたら...お父さん達とまた会えるかもしれない!)

 明と絵理からの連絡を確認すると、円香は今にもスキップしそうな勢いで、2人の待つカフェへと向かっていった。

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