5章 第4話 死霊魔術(ネクロマンス)①

 補習が長引いたせいで日が傾き、すでに薄暗くなってきている道を円香は小走りで目的地へと向かっていた。

(まだあそこにいるかな...)

 円香は自分のスマホを確認するも、特に連絡は来ていないようだった。とりあえず向かってみるしかない。

 近道をしようと横道に入ると、薄暗い中に電灯で照らされた人影に、円香は思わずビクッとする。あまり目を合わせないように様子を見ると、黒いローブ姿の女性が椅子に座り、目の前の机には水晶が置かれている。漫画に出てくる占い師のような格好でいかにも怪しい。

 円香は歩くスピードを落とさずに目の前を通り過ぎようとした時、その占い師が声を掛けてきた。

「お待ちください、そこの方。占いはいかがですか」

 円香は思わず立ち止まる。声を掛けられた以上、無視して立ち去ることもできず、円香は

 占い師の方に顔を向ける。格好は怪しいが、表情や雰囲気は意外と爽やかだ。

「いや...。私お金ないので」

「お代は結構です。今日は上客がいらしたので、1人無料で占おうと思っていたのです。どうですか?」

 円香は一瞬躊躇うが、彼女も女子高生。占いなどには興味を引かれる。


「じゃあ、お願いします」

 占い師は微笑むと円香の目をじっと見つめる。

「なるほど...あなたは過去に大切なものをなくしていますね」

「えっ?」

 占い師の言葉に円香は思わず反応する。

「私には分かりますよ。物......いや、人でしょうか」

 さらに言い当てられた円香は、困惑に近い表情を浮かべる。占い師は微笑みながらも淡々と続けた。

「その人にまた会いたいですか?」

「ど、どういうこと...ですか?両親はもう亡くなってるんですけど」

「それも分かっています。私にはその魔術が使えます」

 2人の間に沈黙が流れる。一呼吸置いた後、占い師はまた口を開いた。

死霊魔術ネクロマンスはご存知ですか?霊を呼び出して対話する魔術です。この国では数人しか使える人物がいないと言われていますが、私はその内の1人です。あなたとご両親をまたお話させることも可能ですよ」

 円香は一瞬目を光らせるが、すぐに表情を戻す。円香は魔術に明るいわけではなかったが、占い師の言葉はさすがに非現実的だと思った。

「それは...無理ですよ」

 占い師はまた微笑む。

「信じられないのは無理もありません。ですので、今証拠をお見せしましょう」

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