5章 第2話 御堂の天才②

 明と絵理が離れた後のハンバーガーショップでは、その原因となった集団が変わらず賑やかなままだった。そこに1人の少年が近づく。

「おい、お前」

 少年は都立第二高校の制服を身につけており、その目はやっと獲物を見つけた獣のようにギラついていた。

 周りの女子高生達は、その異様な様子に困惑するが、当の本人は全く気にもとめてない様子だった。

「シカトしてんじゃねぇぞ。表出ろ!」

 第二高校の生徒が怒声と共にテーブルを蹴ると、上に載っているハンバーガーや飲み物が床へと落ちる。


「...あーあ、食べかけだったんだけどな」

 そこでようやく中心の第一高校の生徒が口を開いた。落ちたハンバーガーと第二高校の生徒を交互に見る。

「ごめんなさい、御堂君。私新しいの買ってくるね」

 女子高生の1人が立ち上がろうとするが、御堂と呼ばれた生徒はそれを手で制した。

「いや...こいつに払わせるからいい」



 人目の付きにくい空き地で2人の男子生徒は対峙する。遠くからは第一高校の生徒と一緒にいた女子高生達がその様子を見つめていた。

 その中でも特に不安そうな表情の女子生徒が、周りに話し掛ける。

「と、止めなくて大丈夫なの?御堂君怪我しちゃうよ」

「そっか、あんた初めてだっけ。まあ見てなよ」

 何度もこんな場面に出くわしているのだろうか、答えた女子生徒はいたって冷静だった。

「御堂 さいは天才だっていうのが分かるから」



 彩は、依然険しい表情の男子生徒に尋ねる。

「それで...用事は?」

「俺の彼女だ。お前、俺の彼女に手を出しやがっただろ」

 彩は少し首を傾げて、遠くで見守る女子校生達の方に目をやった。

「あの中にいるやつ?」

「あの中にはいない」

 すると、彩は納得したように頷くと、意地の悪い笑みを浮かべた。

「なるほど、じゃあ俺がもう飽きた女かな」


「ふざけんなぁァ!」

 その瞬間、男子生徒は地面を手で叩いた。巨大な蔦が地面から伸び、彩に向かう。しかし、彩は盾魔術を目の前に作り出すと、それを簡単に弾く。

 続けて彩を囲むように周りの地面から丸太が勢いよく飛び出るが、自らの身体に炎を纏うと、その丸太は彩に届かずに燃え尽きてしまった。

「なっ...」

 これにはさすがに男子生徒も絶句する。

「...こうやりたかったのか?」

 今度は彩が地面を叩くと、同じように巨大な蔓が男子生徒に向かった。男子生徒も盾魔術を出すが、彩の出した蔓はそれを避け、男子生徒に直撃する。続けて男子生徒の周りを囲うように丸太が飛び出す。

 男子生徒は、咄嗟にしゃがんで直撃を避けるが、丸太に囲まれて身動きが取れなくなってしまった。必死に魔術で脱出を図るも、丸太はビクともしない。

 彩はゆっくりと近づくと、しゃがんで男子生徒の顔を覗き込んだ。

「まだやるか?このまま燃やすとさすがに熱いと思うけどな」

 男子生徒は先程自分の魔術の丸太が燃え尽きたを思い出し、顔が青ざめる。そして観念したように俯いた。


「ハンバーガーと飲み物代、俺とアイツらの分で6個だ。あと...お前の彼女も呼ぶとしたらもう1つか?」

 彩はそう言うと、満足そうに笑った。

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