4章 第26.5話 進む想い

(まだ終わらないのかな)

 明は第二高校近くの公園で1人ベンチに座っていた。天気がいいため、気を抜くと今にも眠ってしまいそうだ。ある理由で寝不足の彼女は頻繁にあくびをしていた。


(う〜。なんで私がこんなに緊張してるんだ。...山神、ダメだったらどうしよう)

 明は何度も何度も時刻を確認すると、自分を落ち着かせるように深呼吸をした。

 事件に巻き込まれはしたが、学園祭は一応成功に落ち着いた。しかし、学園祭の準備で山神の試験対策を削ってしまったことが、明には気がかりだった。ましてや、山神があまり上手くいかなかった様子を感じてしまえば尚更のこと。昨晩よく眠れなかったのは、このせいだった。

(当日は危ないところまで助けて貰ったのに、もし学園祭の準備のせいで失敗してたら...。いやいや、大丈夫大丈夫)

 悪い考えを振り払うように、明は自分に言い聞かせる。少し落ち着こうと顔を上げると、ちょうどそこに山神が通りかかった。



 合格の報告を聞いた明は、ホッと胸を撫で下ろす。帰りが同じ方向の2人は、途中まで一緒に帰ることになった。いつものようにどうでもいい話をしようとする明だが、思ったように会話が続かない。

(あれ?いつもと変わらないはずなのに。山神だって...普通だよなぁ)

 山神は無口なわけではないし、2人で話したことも何度もある。別にいつもと変わらないことだった。あるひとつのことを除いては。


「おーい」

「は、はい!」

「なんだその返事。俺はこっちだけど、家まで送っていくか?」

 どうやらあれこれ考えているうちに、分かれ道まで来てしまったようだった。

「いや、ここまでで大丈夫」

「そっか。じゃあまた明日」

 山神は笑顔で手を振ると、分かれ道の向こうの方へと歩いていった。明は立ち止まって、その小さくなる背中を見つめる。そして、胸が締め付けられるような切なさで彼女は気づくのだった。


(ヤバい。変なのは私の方だったのか...。私...山神のことが...)


 いつもなら「そんなわけあるか!」と笑って誤魔化す彼女も、今回ばかりはそうはいかないようだった。


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