4章 第25話 動画と可能性

「容疑者は磯谷 康規。20歳の無職です。魅了魔術を使って、都内の女子中高生をターゲットにしていたようですね。今回の逮捕をきっかけに、自分も被害にあっていたという学生が何名か出てきています。魅了魔術のせいで詳しく顔を思い出せないため、でたらめを言っていると思われたくなかったんでしょう」

 若い魔特隊員が淡々と読み上げるのを、入江は無表情で聞いていた。真剣にというよりは、ややつまらなさそうだ。

「おまけに容疑者は毎回犯行の様子を撮影していたようです。なんというか...呆れますね」

 若い隊員の言葉に、入江はため息をついた。

「それで今後の再発を防ぐために、休日返上でそれを資料として見せられるわけか。俺は養成校担当なんだけどな」

「申し訳ないですけど、ちょうど人手が足りていない時期ですから。それにしても磯谷を捕まえたのは現役の高校生だとか」

 若い隊員はさらりと話の流れを変える。高校や大学の学園祭をはじめ、秋のイベントシーズンにはトラブルが付きもので、魔特もその対応に追われていた。本来の担当が居ない分は、他の者で埋めなくてはならない。

「三高だったな。腕が立つ奴もいるもんだ。...さて、確認しますかね。お前ももう帰っていいぞ。休日返上なのは俺だけじゃない」

 

入江の言葉に若い隊員は苦笑いすると、一礼して部屋を出ていった。それを確認すると、入江は映像の確認を始める。

 しかし、すぐにその手が止まった。

(これは...山神か?)

 彼がはじめに見たのは、容疑者の磯谷が明を襲った際の動画だった。あらかじめ犯行場所を決めていたのか、固定された位置から撮影されている。当然山神と磯谷の戦闘の様子も映っていた。

(これが光来が山神を推薦した理由か。この力を自由に操れるなら)

入江は明日発表の養成校の試験結果を頭に浮かべる。山神には惜しくも合格に届かない評価を付けた。それでも本番までに力を付けてきていたことも理解していた。

(可能性か...)

入江は少し考えると、ひとり呟いた。



「あいつがどうなるかを見るには、養成校に居てもらうしかないな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る