4章 第23話 あの力

 男性は勝利を確信していた。彼の魔術を止めることは山神には無理だと。だから山神が苦し紛れに出した向かい風など、なんの障害になるはずもなかった。

 しかし彼の予想に反し、山神の魔術は彼を衝撃の魔術ごと吹き飛ばした。

 その力に山神は驚くが、以前同じようなことがあったことを思い出した。

(あの時と同じだ。通り魔の時の盾魔術と)


 よろよろと立ち上がった男性は激しく動揺した様子を見せる。しかし再び山神に向けて手を伸ばすと、引き寄せるジェスチャーをした。

 しかし山神の体は動かない。今度は手前から風を起こすことで、引っ張られるのと逆向きの力を自分へと掛けたからだ。男性は必死になって山神を自分の方へと引き寄せようする。すると山神の体は徐々に動き出した。

「動いた...。はは、これでおわり...だ!?」

 再び自分の力が相手を上回ったと思った男性だったが、その言葉は最後まで続かない。これから衝撃の魔術の射程圏内に引き寄せるはずの山神が、もう目の前に迫っていたからだ。

 さらに強い力で引っ張られることを感じた山神は、思い切り地面を蹴って男性の方に飛び込んでいた。予想していないスピードで迫る山神に対して、男性の衝撃の魔術は当然間に合わない。山神はその勢いのままに突っ込むと、男性は突風にさらわれたかのように吹っ飛ぶ。そしてそのまま壁にぶつかると、後頭部を打ちつけて気絶してしまった。


 山神は荒くなった呼吸を整えながら、自分の腕や脚を見るが、特に違和感を感じない。

(...助かったけど、何だったんだ今の魔術は。明らかに俺が一気に使える以上の魔力が...)

 山神は考え込みそうになるが、ハッと我に返る。今は気にすべきことが他にあるはずだ。振り返って明の様子を確認すると、何が起きたのか分かっていない様子だったが、特に大きな怪我などはしていないようだ。

 さらに外からはバタバタと人の足音が聞こえてきた。場所が場所とはいえ、さすがに異変に気づいたようだ。

 ようやく危険が去ったことを実感すると、山神は安堵のため息をついた。

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