4章 第21話 運命の出会い④

 目を固く閉じた明だったが、その体に衝撃が走ることはなかった。代わりに聞こえてきたのは、誰かの足音と男性の動揺した声だった。

「なんでここが...。ほとんどの生徒が知らないはずなのに」

「一時期人が来ないところ探してたもんで」

 聞き覚えのある声に明は恐る恐る目を開く。

「やまがみ...!」

 目に映ったのは山神の姿だった。明を探すために走ったのか、その肩は早くなった呼吸に合わせて上下する。

「ちっ」

 男性は舌打ちをすると山神に殴りかかる。山神はそれを軽くかわすと、男性の腕を掴んだ。そして風の魔術によって勢いをつけ、男性の足を払うとそのまま地面へと叩きつける。

「んがっ」

 背中を叩きつけられた男性は、その場で動けなくなる。山神はそれを確認すると明の元へと駆け寄った。

「明、大丈夫か!?」

 怪我をしていないのが分かると、山神はホッと息を吐いた。

「とりあえず安全な場所に行こう。立てるか?」

 山神の問いに明は首を横に振る。魅了魔術の影響は薄くなっているものの、完全に解けないと身体に力が入りにくい。

「...仕方ない。後で謝るからな」

 山神は少し躊躇った後、明のことを持ち上げた。ちょうどお姫様抱っこのような状態になり、突然のことに明も思わず赤面する。

「ちょっ、ちょっと!?」

 安全な場所=人目のある場所に向かうということだ。いくら非常時とはいえ、何も知らない人達にこの状態を見られるのは恥ずかし過ぎる。そんな思いで明が訴えてくるのを山神は十分に理解していたが、さすがに他の方法を取る余裕はない。


 男性の横を通り、備品置き場を抜けようとした時、突然明の声色が変わった。

「山神後ろ!」

 その瞬間、山神の背中に衝撃が走り、進行方向に向かって吹き飛ばされる。2人は受け身も取れずに地面に転がるが、直接衝撃の魔術を受けた山神は特に痛みに顔を歪める。2人が振り返ると、立ち上がった男性が鋭い視線を向けていた。

「調子乗るなよガキが」

恐怖で再び顔が青ざめる明を庇うように、山神は彼女の前に出る。


(明は1人で逃げられそうにない。やっぱりこいつをここで無力化するしかない)



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