4章 第20話 運命の出会い③

「えっ...?」

 突き飛ばされた明は派手に転ぶ。起き上がろうとする明は、床に手をつくと思わず痛みで顔を歪めた。備品へとぶつかった拍子に手首を捻ったのだ。

「痛っ!あれ、私なんでこんな所に...」

 明の様子を見た男性は舌打ちをする。

「魔術解けたんだ。まあいいけど、どのみちここまで来たら変わらない」

 明は顔を上げて男性を見るが、先ほどまでの浮ついた感覚は無くなっていた。まるで夢から覚めたかのようだ。そして今の自分がどんな状況にあるかを理解する。

魅了魔術チャームだよ。知ってるだろ?やっぱり上手くいくもんだな」

「魅了魔術...!でもそれって違法じゃ...」

 魅了魔術はその名の通り、対象とした異性を魅了してしまうものだ。魔術にかかってしまうと、相手に恋をしてしまったかのような感覚に陥り、正常な判断をすることができなくなってしまう。この魔術に限らず、精神に作用する魔術は、特別に認められた者以外の使用が法律で禁じられていた。他人を思うがまま操ることで、社会のバランスが崩れるのを防ぐためだ。もちろんこれらを利用しての犯罪行為も少なくない。特に魅了魔術による被害は多く、魔特による注意喚起が度々出されるほどだった。


 明は逃げるために立ち上がろうとするが、体に力が入らない。その間にも男性は笑みを浮かべながら、明にゆっくりと近づく。

「誰でも良かったけど、俺が嫌いな学園祭で張り切ってる女にしようと思ってたんだ。トラウマ残してやろうってさ。お前らは楽しめない人を、置いていくだけだもんな」

 その言葉に明は思わず反応してしまった。

「あんたが...楽しもうとしなかっただけでしょ」

 すると男性の顔から笑みが消えた。男性が隣に置いてあった古いロッカーに掌を近づけると、バコっと大きな音を立ててロッカーがへこむ。衝撃を与える魔術だ。明はビクッと身体を震わせると、恐怖のあまり動けなくなってしまった。

「だからムカつくんだよ。ちょっと乱暴して、顔の記憶消そうと思ったけど...。まあ、1人ぐらい殺ってもバレないか」

 それが冗談ではないことは男性の表情から読み取れた。

「た、たす...けて」

 明は必死に叫ぼうとするが、それが誰かに届くことはない。

(私死ぬのかな。頑張ってみようと思ったのにな...)

 男性から伸びる手に、明は固く目を瞑って祈ることしかできなかった。

(誰か......やま...がみ)

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