4章 第18話 運命の出会い①
翌日になっても人の入りは変わらなかった。あっという間に昼になり、山神たちは交代の時間になる。
「やばい、もうこんな時間か。閃と約束してるんだよ」
山神の言葉に明は苦笑いする。
「ちょっと今は抜けられそうにないかな。3人で行ってきていいよ」
その言葉に絵理は顔をしかめた。
「それじゃ今日も明が休めない。私は残って次の交代で一緒に抜けるよ」
円香もそうしたいと頷くが、明は2人に近づくようにジェスチャーすると、こっそりと話しかける。
「絵理、御堂君が来てくれることなんてもう無いかもしれないよ。今日もいつまでいるか分からないし...。円香も昨日から頑張りすぎ。言い出しっぺの私はいいけど、ちょっと休んで」
それに...と明は少し意地悪そうに笑って続けた。
「あの2人だけじゃ逆ナンされちゃうかもよ?」
円香と絵理の動きが止まる。逆ナンについて行く2人ではない気がするが、行ってしまっても嫌だし、しかしそれを理由に明を置いて抜けるのも...そんな葛藤が2人の頭の中をぐるぐる回る。
「だから、行ってきなよ。ね?」
「ごめん...ありがとね明。交代の時間までには必ず戻るから」
申し訳なさそうな円香とは対象的に、明は全く気にする様子を見せない。
「はいはい。いい雰囲気になったら戻ってこなくてもいいよ」
「絶対戻るって!」「戻ってこれないかも...」
教室から離れていく3人の背中が見えなくなるまで見送ると、明は軽く息を吐いた。
(ちょっとカッコつけすぎちゃったかも。でも...これでそれぞれがちょっとは進展するといいな)
30分も過ぎると、並んでいた列がだいぶ短くなり、明も一息つける状態になった。教室の中、お化け屋敷からは見えなくなっている場所で休憩していると、何やら教室の外がザワついているのを感じた。すぐに受付をやっているクラスメイトが、少し興奮した様子で明の元にやってくる。
「明ちゃん!明ちゃんに会いたいって人がいるんたけど!てか、どんな関係!?」
明は首を傾げる。まるで彼氏でも来たかのような様子だが、心当たりはなかった。恐る恐る受付の方へと出ると、そこにはモデルのような男性が立っていた。周りの女子生徒たちの視線も釘付けだ。
男性は明を見つけると笑顔を見せた。
「はじめまして。急にごめんなさい」
「は、はじめまして...。私に何か...?」
明の鼓動が早くなる。それは初対面の相手に緊張しているからではないと感じた。
「僕昨日もここに来たんですけど、一生懸命なあなたの姿に一目惚れしてしまって。よかったら一緒に回ってもらえませんか?」
周りからは黄色い歓声が上がる。
「えっ、あ...はい」
驚きのあまり明の返事は曖昧になるが、彼女を呼んだクラスメイトが後を押す。
「どうぞどうぞ!この子は今から休憩なんで!」
「それは違」
否定しようとする明に、クラスメイトは耳打ちした。
「明ちゃんが抜けても誰も文句言わないよ。交代時間過ぎくらいに戻ってくればいいから」
明は男性の顔を見る。なぜ自分なのか、それは分からなかったが、まるで童話の王子様がやってきたような状況は満更でもなかった。
「よかった、じゃあ行きましょう」
男性に手を引かれ、明は自分の鼓動が相手に伝わってないか心配になる。彼は色々と話しかけてくれていたが、きっとまともな返事はできていないだろう。
(なんでこんなにドキドキしてるんだろ。私も一目惚れ?もしかして...運命の人なのかな)
そんな柄にもないことを考えては、余計に恥ずかしさを感じている明だった。
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