4章 第16話 そして本番へ②
準備の整った山神の様子を見て、入江も大きく息を吐いた。そして両手を前に出すと、バチバチと音を立てながら、電撃が両方の掌の間で光りだした。
「行くぞ」
入江の合図に山神は構える。電撃の光はだんだんと強くなり、魔術がより強力なものになっているのがわかった。
そして掌が山神に向けられると、電撃はバチッと大きな音を立てて襲いかかる。電撃の魔術は何本もの槍のように形を変え、山神を前方180度の多方向から狙う。山神はそれに合わせるように盾魔術を発動した。
(無難に盾魔術か。しかしそれで持つのか)
入江は魔術に力を込めながら思う。普通の盾魔術は多方向からの攻撃には弱いためだ。
もちろん大きめに盾を作り出すことはできるが、その分耐久力は下がってしまう。ただでさえ力負けする山神にその選択肢はなかった。
(これじゃ無理なのは分かってるって...!)
山神はさらに力を込めると、盾魔術を覆うように風が起こる。その直後、入江の電撃と激しくぶつかり合った。何本もの電撃の槍が山神の魔術とぶつかる度に、山神は顔を歪める。徐々に盾魔術もそれを覆う風の魔術も力を失っていく。
(くっ...)
そして盾魔術にヒビが入った途端、入江の魔術を抑えきれずに山神は後ろに吹き飛んだ。
「...そこまで」
息が上がった山神に、入江は淡々と試験の終了を告げる。山神は悔しそうに拳を握り締めた。
「お疲れ様。試験の結果は後日伝達するからな」
「...はい。ありがとうございました」
山神は力なく立ち上がると、軽く頭を下げて試験会場を後にした。
1か月前ならば、間違いなくあそこまで持たせることもできなかった。それを考えれば上出来だが、それをどう評価されるかは別問題だった。
「剣次さん!」
試験を控えていた閃が、会場から出てきた山神に駆け寄る。その表情は期待と不安が混ざったようなものだったが、山神の様子を見て不安の部分が大きくなる。
「お疲れ様でした。......どうでしたか?」
一瞬躊躇ったあと、そう問いかける。
「他のは大丈夫だと思う。防御が堪えきれなかった。まあ最善は尽くしたよ。2人には感謝しないとな」
山神は早口で答える。
「文化祭行かないと」
そして軽く手を挙げて挨拶をすると、閃の返答を待たずにその場を後にした。この場から離れれば、不安から解放される気がしていたからだ。それと同時に、試験を難なく突破するだろう閃と話す気分にはなれなかった。
「剣次さん...」
離れていく山神の背を見て、閃は呟いた。
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