4章 第13話 再開と可能性

 1日空けての特訓となったが、閃はもちろんのこと、火野も変わらず約束の場所に集まっていた。一昨日の様子だと来なくてもおかしくはないのだが、こういう所はなかなか憎めない。

「悪いな、2人とも」

 いえいえと閃は首を振るが、火野はフンと鼻を鳴らした。

「今日も一昨日の感じだったら俺は降りるからな」

「分かってる」

 山神は真剣な表情で答える。2人の様子を見た閃は、手提げ袋から何枚かの紙を取り出した。

「では揃いましたし、特訓に入る前にこれを見てください。昨日調べたものです」

 閃が見せたのは何件かの魔術による事件の記事だった。火野はそれを不思議がる。

「なんだこれ。御堂、探偵ごっこ始めるわけじゃねぇぞ」

「これらの事件は解決済みですよ。問題は中身です」

 山神は記事の中身に目を通す。場所も時期もバラバラだが、1つ共通する部分があった。

「魔力暴走による事件か。でも珍しいことじゃないだろ」

 魔力暴走はその名前の通り、何らかの原因で魔術が暴発するものである。普段なら無意識にかけているストッパーが外れるため、いつも以上に魔術は強力になり、さらに本人はそのことを覚えてない。

「はい。ただこれらの事件のでは、魔力暴走のことをはっきりと覚えているんです。魔力暴走とされていますが...」

「違うのか?」

「感情のせいではないか、という意見があります」

 火野は首を傾げる。もう一度記事に目を落とすと、頭を掻いた。

「全部動機がはっきりしてる事件かよ。ぶち殺すって気持ちが魔術を強力にしたとでも言いたいのか?」

 閃は火野の言葉に頷く。

「表現が適切か分かりませんが、そういうことだと思います。気持ちが魔術に影響を及ぼすのではないかと」

 俯きながら話を聞いていた山神はハッと顔を上げる。思い出したのは、通り魔の事件のことだった。友人を守りたい一心で出した防御魔術は普通のそれではなかった。

「一昨日もそうです。あの日の剣次さんの魔術は、火野さんが言っていたように明らかに並以下。集中云々の次元ではなかったと思います」


「俺は精神的な影響が出やすいってことなのか...?」

 しかし閃はすぐに肯定はしない。あくまでも、と強調すると続ける。

「可能性の話です。そもそもこのケースは稀なものですから。それに試験にどの程度活かせるかも分かりません」

「そうか...」


(大事なのは心...か)

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