4章 第11話 仲直りまで③

「それで...なんでよりによって俺に言うんだよ」

 山神はスマホを片手に呆れる。電話の相手は円香だった。彼女は上手く言い返せないながらも、明のことを伝えようとしていた。

「今日揉めた剣次に言うのがおかしいのは分かってるよ。でも他の人よりも理解できるのかなって思ったの。明の気持ちが」

 山神は黙り込む。確かにたまたまチャンスを得たものの、それを失いかけている今の状態は、明の現状と重なる部分もあった。人に構っている余裕もなかったが、山神にはなんとなく放って置くこともできなかった。

「...分かった。とりあえず閃辺りに相談してみるよ。あいつならいい案が思いつくかもしれない」


「そういう事だったんですね。今日元気がなかった理由が分かりました」

 円香との通話を終えたあと、山神はそのまま閃に電話をかけていた。山神の様子が気になっていたのか、原因が分かり、閃の声色は明るかった。

「悪い。ただでさえ手間かけてるから、余計なこと言わないようにしてたんだ」

 山神は申し訳なさそうに言う。しかし閃の反応は至ってシンプルだった。

「いえ、全く気にしていませんよ。むしろ言ってもらえない方が気になりますからね。そして、文化祭の問題もおそらく方法はあるでしょう」

「そう...なんだって!?」

 山神は驚きのあまりその場で立ち上がる。事情を話してから数分、解決策を見つけるには早すぎたからだ。

「剣次さんの話だと、明さんが1人で引っ張っているんだと想像がつきます。ただ、いくら明さんにやる気があったとしても、クラスメイト全員に指示を出し切るのはかなり難しいでしょう。作業に遅れる所が出て、そこに集中すれば他に遅れが出ることになります」

 山神は作業の様子を思い出す。特にやる気のあった明がリーダーになったのは良かったものの、そこにみんながついて行く状況になっていたのは事実だ。役割分担も明確とは言えなかった。

「解決策は簡単です。誰かを間に挟めばいいんですよ。そうですね...クラスの中で影響力のある人がいいと思います」

 山神は頭を抱える。言われてみれば簡単なことだった。知らず知らずのうちに冷静ではなくなっていたのかもしれない。

「当事者だと意外と気づかないものですよ」

 閃は最後に少し笑いながらフォローする。


「明日試してみてください。特訓は明後日からにしましょう」

「いや、そういうわけにはいかない。試験の方は解決してないんだ」

 山神はそう答えたが、閃は一刀両断する。

「明日は少し調べたいことがあるんです。それに今日の酷さでは流石に特訓になりませんよ」

「ぐっ...」

 反論できない山神は、大人しく従うことにしたのだった。


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