4章 第10話 仲直りまで②
何事もなく準備に戻った明だったが、またいつものように進みは遅かった。普段ならここで檄を飛ばすため、クラスメイトたちは構える。
「あ...時間だね。じゃあまた明日」
しかし、あっさりと終わり教室をあとにする明の様子に、クラスメイトたちは首を傾げた。
そんな彼女を円香が追いかける。
「明!...大丈夫?」
明は振り返ると、少し困ったように笑った。
「んー。大丈夫...じゃないかも」
「え!?」
その言葉を真に受けて円香は驚くが、明は左手を顔の前でひらひらとさせて続ける。
「うそうそ。大丈夫。ちょっと、山神に悪いことしちゃったなって」
少しふざけた様な調子で言うものの、円香はその奥に何か別の感情が隠されていると感じていた。
「山神の言う通り、もっとみんな将来のために大事なことがあるんだよ。それを私のわがままで引き止めるのは間違ってる」
円香は何も言うことができなかった。どちらか一方の味方をするつもりもないが、明が少し強引な進め方をしていたのは事実だ。それでも、それをわがままなものだとは思えなかった。
「でも明は文化祭を成功させるために...」
「うん。でもそれは私がそう思ってるだけ。私の勝手なこだわりだから」
「私さ、みんなのことが羨ましいんだ。私は円香みたいにかわいくないし、山神みたいに魔術が使えるわけでもない。御堂君みたいに勉強ができるわけでもない。私には輝いてる所なんてないんだって」
明は今にも泣き出しそうになるのを抑えるように、ゆっくりと息を吐く。
「言い方が悪いけど、絵理は私と同じだと思ってた。何でもいいから輝いてるものを追いかけるの。そうしてると自分も輝いてるみたいに感じられるから。でも御堂君に会ってからの絵理は違うよ。今はとっても輝いて見える」
明が文化祭に本気になった理由はここにあった。人気投票で1位になるということは、言わばその年の文化祭の主役になるようなものだ。彼女は周りと同じように在りたいと必死だったのかもしれない。
「今回はちょっと頑張ろうと思ったけど、空回っちゃったな」
円香は首を横に振るが、明はそれを肯定も否定もせず、微笑むだけだった。
「おっと、この話はここでおしまい。明日ちゃんと山神と話してみるよ。そして...文化祭もクオリティ下げて、何とか間に合わせようか」
円香はそれじゃダメだという言葉を飲み込んで、ただ頷くことしかできなかった。
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