4章 第9話 仲直りまで①

 明と言い合いになった後、そのまま残るわけにもいかない山神は、いつものように火野たちとの特訓に向かった。しかしやはりそう簡単に切り替えはできなかったのか、いつも以上に上手くいっていなかった。

「山神、お前ふざけてんのか?」

 腹を立てた火野は、山神の胸ぐらを掴みかかろうとする。閃が慌てて割って入るが、それでも収まらない火野は、舌打ちをして地面を蹴った。

「悪い...」

 山神は言い返すこともなく俯く。

「...何かありましたか?」

 閃は心配そうに山神の顔を覗き込むが、彼は首を横に振ると力無く笑った。

「いや、なんでもない。今日はちょっと調子が悪いみたいだ。悪いけど先に帰るよ」

 そう残すと、2人が止める間もなく離れていってしまった。火野は腰に手を当てて、呆れた様な表情を見せる。

「なんなんだ、あいつ。毎日付き合ってやってるのにあれか?明らかに並以下だろ」

「......」

 閃は口元に手を当てて、何かを考えているようだった。



 帰宅する山神の足取りは重かった。焦りから明と衝突したというのに、それが原因で特訓に身が入らないのでは本末転倒だ。

(何してんだ、俺は...)

 山神は頭を抱える。せめて閃には伝えるべきだったかと思うが、これ以上自分のために頭を悩まさせるのは嫌だった。


「山神」

 山神がちょうどコンビニの前を通りかかった時だった。聞き覚えのある声で呼び止めれられ、足が止まる。山神が顔を向けると、そこに居たのは絵理だった。

「やっぱここ通るんだ。御堂君は...いないよね?」

 絵理は閃が一緒にいないことを確認すると、残念そうもホッとしたような表情を浮かべた。

「絵理か。どうしてここに...?」

 山神は怪訝な顔をする。ここは彼女の帰り道ではなかった気がしたからだった。

「たまたまここに寄っただけ。それよりもさっきはどうしたの?なんか珍しいなって思って」

「あぁ、ちょっとな。そういえば明は...」

「少し元気なかった。でも大丈夫だと思うよ、円香も一緒に居るし」

「そうか」

 絵理の話を聞き、山神はほんの少しだけ安心する。もちろん解決した訳ではないが、明と1番親しい人物がそう言ってくれるのは、山神にとってはありがたかった。それだけ彼女に対して言ってはいけないことを言ってしまったという自覚があった。


 絵理は山神をじっと見つめる。しばし黙ったあと、軽く頷くと口を開いた。

「明日にでもまた明と話してみて。きっと大丈夫だと思うから。じゃあね、山神」

 それだけを優しい口調で言うと、早足で離れていった。

 もしかすると自分を心配して来てくれたのではないかと山神は思った。

「ありがとな!」

 姿の小さくなった絵里に向けて山神は叫んだ。絵理は1度立ち止まるが、そのまま歩いていった。

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