4章 第8話 衝突
「これじゃ間に合わないよ!」
文化祭まで2週間。しかしクラスの準備はいまいち進んでいなかった。委員長とは別に中心となって引っ張っている明は、思わず語気を荒げる。
「そんなこと言ってもよー...」
クラスの男子生徒が言い返そうとするが、睨みつけられて黙り込む。あまり雰囲気のいい状態であるとは言えなかった。明はトーンダウンして続ける。
「...とりあえず残れる人は残って準備しよ」
普段はお気楽で楽天的なため、あまりに真剣で厳しい明にクラスメイトたちは困惑していた。
一方の山神も文化祭の準備が手につかない状況だった。理由はもちろん、養成校の試験だった。閃、火野と特訓を始めて2週間近く経っていたが、とてもじゃないが試験を突破できるとは思えなかった。
(火野のだいぶ手加減した魔術でもやっとだ。試験がどんなもんかは分からないけど、あれよりも弱いものだとは考えにくい。一体どうすれば...)
頭を捻らせるが答えは出ない。
「おい山神、もう16時半になるけど大丈夫か?」
クラスメイトの一言で山神は顔を上げる。ここの所いつも同じ時間には帰っていたため、気を利かせた友人が声をかけてくれたのだった。
「サンキュー。悪いけど先帰るわ」
山神は急いで荷物をまとめると、教室から飛び出そうとする。しかし少し出たところで誰かに呼び止められた。
「待って山神」
山神が声の方を振り向くと、険しい顔をした明が立っていた。彼女の苛立ちのようなものを感じ取るのは難しくなかった。
「今日も残れないわけ?あんただけなんだけど...」
山神は気まずそうに頭を掻く。試験突破の特訓のために、ほぼ毎日早く準備から抜ける日が続いていた。
「悪い、明。でも別に準備をしたくないから抜けてるわけじゃないんだ。今はもっと大事なことがあって...」
「はあ?じゃあ残ってるみんなは暇人とでも言いたいわけ!」
「そんなこと言ってないだろ!」
2人はヒートアップしてしまう。異変に気づいた円香と絵理が2人の元にやって来る程だった。
「ただでさえ進まなくて人手が欲しいのに、あんただけ自分の都合で帰っていいわけないでしょ。ちゃんと手伝うって言ってたのは嘘だったわけ?」
「違う。現に放課後は無理でもちゃんと準備は進めてるだろ。今はこんなことよりも大事なことがあるんだよ」
焦りや苛立ちから出た言葉。山神も深く考えて言ったわけではなかった。しかしこの言葉に明は声を失った。
「そっか。そう...だよね」
少しの沈黙のあと、明は呟くと俯き加減で教室に戻っていった。山神はハッとして呼び止めようとするが、声に出すことはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます