4章 第7話 特訓開始②

「一通り見たところ、剣次さんが1番厳しいのはこの辺りでしょうか」

 閃は試験内容の書かれたプリントにマーカーで線を引く。正面からの魔術を受け止め、相殺するというものだった。山神は黙って頷く。

「あ?そんなの楽勝だろ。同じように魔術撃ちゃいいんだよ」

 火野は呆れたようにそう言う。しかし2人の様子を見て怪訝な顔をした。

(こいつ結構アホなんじゃ...)

「なんだよ...」

 山神は心の声が外に出ないようにグッと堪える。しかし火野のように考えられるのが、山神には羨ましくもあった。彼はそうするだけで、突破できると言っているようなものだからだ。火野の魔術実践の実力は養成校でも上位に入る。それだけセンスもあるのだ。

「魔力変換率の低い剣次さんが同じように魔術を使おうとすれば、間違いなく先に魔力切れを起こすでしょう。強力な魔術であればそれ以前の問題かもしれません」

 山神は難しい顔をして聞いている。一方の火野はいまいち理解しきれていないようだ。

「では数字で例えてみましょう。お互いの魔力量を100、変換率はそのままで魔術を使ったとしましょう。それぞれが100の威力の魔術をぶつけ合うわけですから、相殺できます。ここまではいいですか?」

 これには火野も頷く。

「しかし剣次さんの場合、仮に魔力変換率が3分の1だとします。同じように魔力量を100とすると、片方は威力100でも剣次さんは33。これでは相殺するどころではありません。相手が半分の力でも厳しいわけですから」

 山神は困ったようにため息をつく。理解していたつもりだが、実際に数値化されると一層厳しい現状を突きつけられる。

「......わかんねぇ。あぁ、そうか。実際にやってみりゃいいんだな」

 そう言いながら火野は2人から離れるように歩き出す。

 ある程度距離を取ると、火野は両手を前に出し火の玉を作り出す。みるみるうちに火の玉は大きくなる。

「退いてろ、御堂!」

 すぐに状況を察した閃は山神から大きく離れる。山神が理解したのは、まさに火野がその火の玉を飛ばす時だった。

「やってみるってそういうことかよ!?」

 火の玉に対して山神は防御魔術を出すが、あまりにも突然だったこともあり、簡単に破られてしまう。山神は勢いに負けて尻餅をつき、咳込んだ。



「...なるほど?」

 なお理解していない様子の火野を見て、さすがの山神も拳を固めたのだった。

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