4章 第5話 ふるい落とし

 山神が都立第二高校に着くと、いつもよりもざわざわと騒がしかった。部活などが盛んに行われているため、第三高校の放課後よりはいつも賑やかなのだが、それとは違う様子を山神は感じた。原因はホワイトボードを囲む養成校の生徒達だ。

「どうかしたのか?」

 そう問いかけた山神に気づいて、1人の生徒が振り返る。何やら少し不安そうだ。

「山神か。見ろよあれ」

 山神は背伸びをしてホワイトボードを見る。そしてホワイトボードに貼ってある、1枚のプリントを見つけると、声に出して読み始めた。

「えっと、実技試験...日程は1ヶ月後か。不合格者は......え?」

 驚きのあまり山神は言葉を失う。少しの沈黙のあと、絞り出すように続けた。

「不合格者は魔特養成校の生徒としての権利を失う」

 それは不合格=魔特養成校にいることができなくなることを意味していた。こういった試験があることを聞かされていなかった生徒たちが騒がしくなるのも無理はない。山神の顔にも動揺が浮かぶ。

 するとそこに養成校の指導員、入江がやってきた。生徒たちの視線が一斉にそちらに向かう。いつもとは違い、それだけで静まり返る。沈黙を破ったのは火野だった。

「コーチ!これはどういうことなんだよ。推薦貰った時はこんなこと聞いてないぜ」

 周りの数人の生徒たちが頷く。しかし入江は表情を変えない。

「それはそうだ。あの時決定していたわけではないからな」

 その言葉にまたざわつき出す。今度は女子生徒の1人が質問のために手を挙げた。

「じゃあ、これまでの私たちの様子を見て決めたってことですか...?」

 入江は彼女の言葉に、そうだ、と短く返した。


「みんなも分かっていると思うが、現在魔特の現場というのはますます厳しさを増してきている。推薦を受けて養成校に来た君たちは確かにセンスがあるが、それでも魔特としての水準に達していない者もいるさ。今回の試験で一定基準未満の成績の者には、養成校を辞めてもらう」

 淡々と話す入江とは対照的に、生徒たちは落ち着かない様子で話を聞いていた。既に不安げな表情で固まっている生徒も見られる。

「もちろん大半が落ちるような基準にするつもりはないが、各自対策するように。どのような試験になるかは後で話すからな」



 光来にはああいったものの、入江が考え抜いた答えは全員に同じ試験をさせることだった。その方が不平等感なく、自然と山神が魔特を諦めると思ったからだ。他にも厳しい生徒がいれば、他の道を探すきっかけにもなる。

 しかし...

(確かに...これが大人のすることではないな)

 入江には光来が残した言葉もよく分かっていた。

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