4章 第2話 講師の思い②
「どういうことですか。山神は適切ではないと?」
光来は入江の言葉に驚き、目を見開く。そして同時に疑問を持つ。たしかに山神はここ最近の事件に巻き込まれることが多かった。しかし魔特に不適切な人格をしているとは思えなかった。
「いや、違うんだ。お前の思っているような理由ではないさ」
「ではなぜ?」
光来はやや食い気味に疑問をぶつける。すると入江は言いずらそうに洩らした。
「...山神の魔力変換率の低さだ」
「なっ!?」
想定外の言葉に光来は怒りを浮かべて詰め寄ろうとする。しかし入江は素早く手を出して制止した。
「最後まで聞け。いいか、山神がそれを原因に他の生徒達に劣っているなんて思っていないさ。魔術自体のセンスはあるし、組手をさせても上手くカバーして戦えている。だがな、力でのぶつかり合いになれば勝つことはできないんだ。言っていた不思議な魔術も見られない」
「あえて正面から戦う必要はないでしょう。その技術を入江さんも評価しているではないですか。強力な魔術でもかわせば...」
そこで光来は何かに気づいて口を止めた。入江はその様子を見て軽く頷いて続けた。
「競技のようなタイマン勝負なら問題ない。だが魔特は住民を守りつつ犯人を無力化しなくてはならない。もし住民を背負った状態で受け止められない魔術が来たら?高燃費では魔力切れのリスクが大きすぎる。1人ならそこでおしまいなんだぞ」
高燃費の山神はほかの人と同じように魔術を使えば、その分早く魔力を消費してしまう。凶悪犯には力任せに魔力を振るう者も多いため、対抗出来る強力な魔術を使わなければいけない場面も出てくる。だがそれは山神にとっては悪手だった。
「魔特になることがゴールではない。あえて茨の道を進んでほしいとは思わないさ。山神のように真摯に取り組める生徒は、他の分野でも必ず成功できる。そんな可能性を俺は潰したくない」
光来は黙ったまま聴いていたが、その拳は固く握りしめられていた。
「...推薦したのはお前だ。お前の許可なく山神を外すことはできない。より良い道に進ませてやることが、大人の役目だ」
光来は持っていた書類がくしゃくしゃになるほど握りしめ、怒鳴る準備をするように息を吸った。...しかし、その息を力なく吐き出すと、静かな声で言った。
「おっしゃっていることはよく分かりました。しかし、私は夢に向かう少年の可能性を潰すことが大人のやる事だとは思いません。養成校に関しては入江さんにお任せします。では私はそろそろ行きますので」
その場を立ち去る光来の顔には、理解はできても納得がいかないといった、複雑な思いが表れていた。
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