4章 第1話 講師の思い①

 時刻は午後8時を回ったところ、養成校の講師である入江いりえは魔特の本部へと来ていた。終業時間は過ぎているが、多くの部署で働く隊員達が見られた。一方で養成校の指導を終えた入江はちょうど帰宅するところだった。少し気まずそうに周りを見渡す。すると向こうから彼がよく見知った人物が歩いてきた。

「おお、光来!......随分と大変そうだな」

 入江の声に気づいた光来は顔を上げる。何種類もの書類を抱え、顔には疲れが見える。

「お疲れ様です。いや、だいぶ立て込んでいます。この間の爆破未遂に連続殺傷事件、凶悪な事件も増加しています。対応の遅れに国民からの非難も増えてきていて...」

「そうか...。すまない、先にあがらせて貰うが」

 入江が申し訳なさそうに言うと、光来はいやいやと首を振る。

「元々我々7番隊の管轄ですから。それに養成校の指導も重要です。今年の生徒たちはどうですか?」

 光来は話を移す。仕事の話をしたくないと言うよりも、単純に養成校の様子が気になっているようだ。

「やはり優秀な生徒は多いな。みんな推薦を受けてきただけある。ただ...段々と全体のレベルが下がってきているのは確かだ。魔術の需要が下がってきているから仕方がないのかもしれないが」

 科学技術などが発達することに伴って、日常生活で魔術を使う機会が減少してきている。職業も多様化していく中で、あえて魔術を重視しなくてもよくなってきたのだ。学校で学ぶ内容もある意味形式的なものになっていた。

「もちろん優秀な生徒もいるがな。特に御堂は筆記と実技共に優秀だ。魔特に入らないと言っているのは残念だが、今後も活躍していけるだろう。それと...お前に話さなければいけないと思っていたんだ。山神のことについてだ」

光来は首を傾げる。

「山神がどうかしましたか?」

入江は軽く息を吐くと顔をしかめる。話すべきことはあるが、少し言いにくそうな様子が伝わってくる。



しばしの沈黙のあと、入江はようやく口を開いた。

「いや、やはりお前の意見が必要だな。光来、俺は山神は魔特を目指すべきではないと思う」

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