3章 第16話 終わりは一歩前に

 山神は閃の言葉から彼の劣等感を感じ取った。そして兄のことも彼の考えではなく、客観的な事実なのだろう。歴代の御堂家の中で最も優れていると言われても、正直想像がつかなかった。

「じゃあ閃の兄さんが次期当主になるんじゃないのか?魔術の天才なら尚更だろ」

 山神は当然の疑問を口にする。その問いに閃は首を横に振った。

「...兄は次期当主になるのを拒みました。伝統や魔術の型を重視する御堂の魔術を激しく嫌ったんです。説得も聞き入れないため、本当になる気はないんでしょう」

 魔術も武道のように昔からの型から学び始めることが多い。その方が万人が同じように使いやすくなるからだ。いわば教科書通りの魔術、日常生活で魔術を使わない人ならばこれで足りる。それ以上の人がそれを崩したり、独自の方法で魔術を使うようになるのだ。

 もちろん古くからの型は続くだけの理由があるのだが、それを退屈に思う若者も少なくないという。閃の兄も才能があるがゆえに、より強い拒絶を示したのかもしれない。

「僕は小さい頃から当主になりたかったんです。それだけに長男で才能もある兄が羨ましかった。兄が放棄したものを黙って受け取りたくないんです」

「それで、兄さんに負けてないって認めてもらいたいってわけか...」

 山神は祭りで貰ったうちわを縦にすると、プラスチックの部分で閃の頭を軽く叩いた。

「わっ!?」

 思いのほか痛かったのか閃が驚く。頭をさする閃に向かって山神が少し言葉を強めた。

「アホか。お前を認めてなきゃいくら力の差があろうが次期当主にはすることはないだろ 。俺たちはやれることをやるだけさ」

「...はい。そしてそれを今日教えられ...」


「さっきからなーに話してんの?」

 突然2人の間に明が割って入る。円香と絵理も不思議そうな顔をしているため、3人の会話もひと段落したようだ。

「結局半分くらいしか祭り楽しめなかったね」

 明が残念そうな顔で言う。円香にはお前らは2人きりになれたから良かったな的な目線も向けたが円香は気づかない。

「し、仕方ないよ。あんなことあったし、私は御堂君と一緒にまわれてぅ......」

 絵理は相変わらずガチガチに緊張している。事情聴取のあとに普通に話せていたのは事件後で逆に冷静になっていたのだろう。今は一番大事な部分が言えていない。

 しかし閃は優しく答えた。

「はい。僕もとても楽しかったですよ」

 絵理の顔が真っ赤になる。その様子を見て、円香と明は顔を見合わせてニヤリとした。

「ねぇ御堂君、良かったらまた5人で遊ぼうよ。連絡先とか交換しない?」

 その言葉に絵理はギョッとする。恐る恐る閃の顔を見る絵理に閃は即答した。

「いいですよ」


 

その瞬間、喜びと驚きとその他ありとあらゆる感情が起こった絵理が完全にフリーズしてしまう。

「「絵理ー!?」」

 声を合わせる円香と明、それを見て苦笑いを浮かべる山神。そんな4人を見て、閃は思わず笑ってしまうのだった。





〜4章に続く〜

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