3章 第15話 理由と焦り

 閃と絵理、山神たちの5人全てが事情聴取を終えると、花火の時間も終わって祭りはお開きムードだった。会場を後にする多くの人の波ができる。

 犯人と対面したことを円香たちに話す絵理とは逆に、閃はあまり口を開かなかった。そんな閃を山神は引っぱり、控えめに問いかける。

「閃...なんですぐに伝えなかったんだ?お前らしくない」

「...」

 閃は少しの沈黙のあと、軽く息を吸うと話し始めた。

「今回は...すいませんでした。異変に気づいた身として、伝えるべきでした。...理由はいくつかあります」

 山神はあまり想像がつかない様子で続く言葉を待つ。

「一つはお祭りを壊したくなかったこと。こういったものに参加したのは初めてだったんです。とても楽しくて...それだけに公にしないで止めたいと思いました。波葉さんの件をなんとかできたことで、少し自信過剰になっていたのかもしれません。そしてもう一つ、これは以前話したことにも関係します」

「...魔特にならないってことか?」

 山神は記憶を辿る。閃は頷くと続けた。

「はい。僕は魔特にはなれません。養成校に来ているのも魔術を高めるためです。もちろん、推薦をくれた方と指導員の方にはお話してあります。僕は...御堂本家の次期当主ですから」

「なっ!?」

 山神は飛び跳ねんばかりに驚く。本家ということは御堂の血筋で最も上位であることを意味する。その当主となれば、戦国時代でいえば殿さまのようなものだ。もちろん現代においてそこまではっきりとした格差はないだろうが、それでも分家の人を動かすくらいの力はあるのかもしれない。

「御堂本家の当主になるためには、魔術に精通し、御堂家に代々伝わる魔術を会得しなければなりません。僕は現当主...父に一人前だと認めて貰うため、1人で...」

 しかし山神はこれに反論する。

「待て、それは分かった。でも次期当主だって決まってるんだろ?そんなに焦る必要はないはずだ」

 次期当主ならば、いずれは継ぐことになる。そのため必要以上に焦る必要が閃にはなかった。もちろん早いに越したことはないかもしれないが、それでも時間は十分にある。しかし閃は首を横に振った。




「僕には兄がいます。本来ならば次に当主になるのは、魔術師として大きく劣らなければ長男なんです」


「そして兄は、御堂家始まって以来の魔術の天才でした」

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