3章 第13話 気づいた過ち

 男性の木刀から血が滴る。女性の体はまるで鋭利な刃物に切り裂かれたような傷ができているが、幸いすぐに命にかかわる量の出血ではなかった。突然の出来事に気絶してしまったようだ。

 女性が気を失ったことで閃は体の自由を取り戻していた。男性の動きを注意深く見ながら身構える。絵理は何が起きたのか理解しきれていないようだった。空に打ちあがった花火によって、男性の顔が照らされる。2人は面識がなかったが、焼きそばの出店の手伝いをしていた霧崎亮だった。

「まさか...連続傷害事件の」

 閃が呟く。最近起こっていた連続傷害事件の犯人は、刃物のようなもので指名手配犯などを襲っていた。まさに爆破事件を起こそうとしていた女性を切りつけたことからも状況は一致する。

(木刀に...強化付与?なんにせよ刃物のように切れるのは普通ではなさそうですね)

 打ち上がった花火の方に霧崎が少し意識を向ける。その瞬間、閃は思い切り地面を蹴ると霧崎の方に突っ込む。間を詰めると霧崎の脇腹に蹴りを放つが、閃の鋭い蹴りは空を切る。逆に、すぐさま反応してかわした霧崎が木刀を振るうと、閃はまともに受けてしまった。

「くっ...」

 閃は体を抑えて後ろへ下がる。それを見て黙っていた霧崎が口を開いた。

「君は...高校生か。すぐに異変に気づいて行動に起こすとは大したもんだ」

 閃と倒れた女性を交互に見る。

「だけどそのせいで君は祭り会場全ての人間を危険に晒した。何が起きるか分かってただろ?」

「ち、違います!僕はただ...」

 閃は言い返そうとするが、霧崎に睨みつけられると言葉を止める。その迫力に2人は体を動かすこともできなかった。


「...まあ無能な魔特よりは幾分かマシかもな」

 霧崎はそう残すと、その場から離れていった。しかし閃は霧崎を追いかけることはなく、ただその場で俯いて立ち尽くしていた。

 霧崎の言う通り、女性の魔術は発動寸前だった。実際は山神がなんとか無効化できていたが、何にせよかなり危険な状態まで行ったことに間違いはない。結局女性を止めたのも、連続傷害事件を起こしていた霧崎だったのだ。魔術に気づきながら、すぐに助けを求めずに1人で解決しようとしたのは、自分の力を過信していたに過ぎなかった。改めてその事実を突きつけられた閃は、しばらくその場を動くことができなかった。

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