3章 第12話 魔術の起点

 山神は明、厳密にいうと閃、が言っていたことを思い出す。おそらく誰かが魔力吸収から魔術を発動させようとしている...。そこから山神が魔術の起点に気づくのは難しいことではなかった。

(起点か...?ならこれを破壊すれば魔術が止まるはずだ)

 もちろん閃が同じことを試みたことを山神は知らない。山神は風のクナイを作り出すとそれを思い切り起点に振り下ろした。接触した瞬間にバチッと音を立てるが、山神はさらに押し込む。しかし起点に帯びた魔力はそれを弾くと、山神はその反動で尻餅をついた。

(思ったより強力だな。...ん!?)

 起き上がって再び起点に目を向けた山神は何かに気づく。起点となっている石がだんだんと光を強めてきていた。同時に地面には魔術の範囲を表す線が浮かび始める。祭り客たちも異変に気付いたのか、祭り会場ではざわざわと先ほどまでとは違う騒がしさが感じられた。花火の打ち上げまであと1分、今まさにあの女性が祭り会場を爆破させる魔術を発動させようとしているところだった。ただならぬことが起きそうなことを山神は感じ取る。

(まずい...)

 山神の顔に焦りが浮かぶ。しかしもう避難を呼びかけても間に合わない。山神がこの事態をどうにかするには、目の前の起点を破壊するしかなかった。山神は覚悟を決めると再び風のクナイを作り出すと、自分の魔力を可能な限り込めた。そして先ほどと同じように起点へと振り下ろす。起点に帯びた魔力はまたしても弾こうするが、山神は歯を食いしばって耐える。

「このっ...、負けるか!」

 思わず叫ぶと風のクナイが起点へと突き刺さった。さらに山神が全体重を込めると、魔術の起点が半分に割れた。すると先ほどまで地面に浮かび上がっていた魔術の線は消え、感じられていた魔力の気配も消える。

 本来であればこの起点を壊すのは不可能に近かった。起点が帯びた魔力が強力な盾魔術のように全てを弾くため、力技で壊すには相当な魔術が必要だ。しかし爆破魔術に移行する段階でこの帯びていた魔力も使われたことで、起点の耐久力が下がっていた。そのため山神でも運よく破壊することができたのだった。


 上手くいったのかと山神が周りを見渡すと、すぐ近くでドンと爆発したような大きな音がした。山神は息を飲んだが...祭り客たちは空を見上げて笑顔を浮かべている。空には大きな花火が打ちあがっていた。

(...大丈夫、だったのか?)

 何も起こっていないことを確認すると、山神はため息とともにその場に座り込んだ。いつの間にか汗にまみれていた顔を拭うと、魔特とともに走ってくる円香と明を見つけ、山神は手を挙げて場所を伝えた。

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