3章 第7話 出会い

 ギャラリーをかき分け、山神たちを通りすぎて歩いていこうとする男性に円香が話しかける。

「あの...ありがとうございます」

 円香が頭を下げると男性は不思議そうな顔をした。少し離れていたうえに射的屋で散財してしまう年にも見えなかったからだろう。

「君らもあそこで?」

 円香は首と手を横に振って否定する。

「いえ、そうじゃなくて。細工してるだろうってことで良くないって言おうとしてたんです。よく考えるとしてないって突っぱねられるだけだったかも...」

 なるほどと男性頷くと今度は山神が続けて口を開いた。

「気づかれないくらいで射的の銃に強化付与エンチャントしたんですか?」

「...驚いたな。目の前の店主も気づいてなかったのに」

 男性は驚きの表情を見せた後にニヤリと笑った。

「射的で魔術を使うのは景品への細工と同じくらい褒められたものじゃない。あの出店は毎年ああやって子どもを騙していたから少し懲らしめてやりたかったんだ。ここは見逃して欲しいな」

 いたずらっぽい笑みを浮かべる男性に対して円香もつられて笑う。

「さすがにそれをズルだっては言いませんよ。ね、剣次?」

 山神も笑って頷くと、男性は大げさにホッとしたような仕草をした。

「ははっ、ありがとう。俺は霧崎亮きりさきりょう。実は焼きそばの出店をしているから後でおいで、サービスするよ」

 それじゃと手を挙げるて男性が去っていった。

「面白いしいい人だったね。後でお店行ってみようか」

「そうだな」

 しかし山神には少し引っかかるところがあった。

(強化付与は基本だけど実用的な魔術じゃない。それを周りに気づかれないくらいに調整したのか?だとしたら相当なもんだぞ...)

 強化付与は魔術を習う人なら大体は使うことができる。しかし物質に均等に魔力を通さなければそれほど強度を高めることをできないため、効果を実感するレベルまでいける人は多くない。魔術のエリートである魔特の隊員でさえ、強化付与を使いこなせればそれだけで重宝されると言われている。山神が実用的ではないと思ったのはこれが理由だった。もし上手く調整しつつ強化したのなら、そんな人間がふらっと現れるとも思えなかった。

(...考えすぎか。たまたま得意だっただけかもしれないしな。後でコツとか聞いてみるか)

 世の中魔術に精通していても普通の職に付いている人も多い。山神はこのことを特に気にしないことにした。

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