3章 第6話 祭りを狙う影
「まだ時間がかかるわね。とは言っても花火の時間に間に合うから問題はないけれど」
神社の陰に1人ぽつんとたたずむ女性が呟く。足元に浮かぶ魔法陣は不規則に瞬き、女性はその様子を真剣に見つめていた。
彼女がいる場所は普段から一般人の立ち入りが禁止となっている場所だ。しかし祭りから遠く離れているわけではないため、楽しげな音が聞こえてくる。それでもバレないのは、この場所が人を近づけない雰囲気を持っているからだろう。
「というかここ怖すぎるんだけど。ボスはまず人が来ないっては言ってたけどさ、人ならざるものの方が寄ってきそうよ」
暗いうえにひどく心霊スポット感が出ていて、祭りを抜け出したカップルもここには留まれないだろう。おまけに普段から立ち入り禁止なため、地元にはあらぬ噂すら立っていた。
「まあ邪魔者が来ても迷惑だし、ここは我慢かしら。成功すれば昇進間違いないし」
女性は周りを見渡すとニヤリと笑った。
「時間はかかるけど魔特も気づけない。そのままボカーンとやれちゃいそうね」
その頃、異変に気づいていない山神と円香は変わらず祭りを楽しんでいた。絵理のように影響が顕著に表れる人もいないため、この場にいる誰も魔力を吸収されていると思ってはいなかった。
「剣次!射的だって。懐かしいね」
看板を見た円香が近寄るが、何やら揉めていることに気づく。同様に気づいた山神は呆れた表情を浮かべた。
「あ〜...。たぶん射的の景品が倒れないんだろ。よくあるやつだよ」
どうやら小中学生くらいの子どもと射的屋の店主が言い争っているようだ。子どもの1人がゲームソフトに上手く命中させるが、ゲームソフトはびくともしない。何か細工してあるのは明白だった。
「ひどい。あんなの詐偽だよ」
円香は腹を立てるが、山神はそれを制止する。そのことで円香の怒りは山神へと向かった。
「ちょっと剣次!ズルしてるんだから言わなきゃだよ。それとも見て見ぬふりするつもりなの?」
この手の悪徳な出店は言っても無駄だ。山神はそう言い返そうとするが、なお真剣な表情で訴えかける円香も見ると軽くため息をついた。
「わかった...。その代わりお前は近づくなよ。変にトラブルになるかもしれないから」
しかし山神が指摘しようと近づいた時、1人の若い男性が店主へと声をかけた。
「大人1回で」
年齢は二十歳前後だろうか。中肉中背だが、どこか他の人とは違う雰囲気を放っている。子どもたちがやらない方がいいと騒ぐが、男性は気にせず射的の銃を構えた。
「これで倒せば景品貰えるんだよね?」
店主が頷くと、男性は弾を込めて引き金を引いた。1発目は外れてしまう。
「意外と難しいな」
恥ずかしさを隠すような笑いをすると、続けて弾を込めた。狙いを定めて引き金を引くと、今度はゲームソフトに当たる。すると今までびくともしなかったゲームソフトが見事に棚から後ろへと落ちた。景品獲得だ。子どもたちからは驚きの声があがるが、何よりも店主が一番の驚いている。続けて残りを全弾命中させると、男性は銃を置く。
「じゃあそれはこの子たちにあげて。次細工したら今度は全部戴くからそのつもりで」
いつの間にかできていたギャラリーからは大きな歓声があがっていた。
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