3章 第5話 始まりは夏祭り⑤

 少し離れた場所にあるベンチに絵理を座らせると、閃は2人にいくつかの質問をした。

「昼間魔術を使いましたか?」

 明は首を振る。

「使ってないよ。一緒にいたから絵理もないと思う」

「そうですか...。失礼ですがお二人とも魔術はどれくらい使えますか?」

「うーん、平均以下だと思う。絵理は私よりも苦手かも」

「やはりそうなんですね」

 返答を聞いた閃が考え込むと、明は不安げに閃の身体を揺さぶる。

「ちょっ、ちょっと。絵理は大丈夫なの」

 閃はハッと顔を上げると、頭を下げた。

「そうでした、すいません。絵理さんは大丈夫だと思います。おそらく魔力消耗によるものでしょう」

 体力と同様に、魔力も使いすぎれば身体に影響が出る。山神が倒れた時のように、魔力量がゼロに近づくと身体の力が抜けたり、酷いと気を失ったりしてしまう。

 明は首を傾げた。

「さっきも言ったけど魔術なんて使ってないよ?」

 その言葉に閃は頷くと、真剣な顔で説明を始める。

「はい。なので誰かが魔力を吸収して、何かの魔術を目論んでいる可能性があります。対象が絵理さんだけか、僕たちからなのか...」

 続く言葉を察したのか、明は少し震えて唾を飲み込む。

「それとも、この祭りにいる全ての人からか。僕は全ての人からだと考えています」

 明は信じられないといった様子で首を振る。閃の話ならば自分も含まれるが、絵理のように身体に違和感を感じてはいなかったからだ。

「それなら私たち、いや祭りに来てる人みんなが絵理みたくフラフラになるはずじゃん。か、考えすぎでしょ」

 不安が現れている明とは対照的に、閃は表情を変えずに続けた。

「異変を感じないほどの微量を吸収することも可能です。それでもこの人の量なら相当の魔力量になるはずですから。絵理さんは元々魔力量が少ないうえに、僕と初対面で酷く緊張している様でしたので、魔術の影響をモロに受けてしまったんでしょう。祭りの本ルートを外れたここならば大丈夫だと思います」

 閃は絵理の手を握って目を瞑ると、絵理と閃の手の甲に小さな魔法陣が浮かび上がった。手を離して息を吐くと、2つの魔法陣が少しの間光を放ち、そして段々と小さくなって消えてしまった。それと同時に絵理の顔色も少しよくなる。

「すいません、僕が一緒でなければここまで悪化することもなかったでしょう。今僕の魔力を少しお分けしたので、すぐに体調は元に戻ると思います。そしたらできるだけ早くここから離れてください。もしかすると、もっと危険なことが起きるかもしれません」

 冗談を言っている雰囲気でないことを感じ取った明は何かを話そうとするも言葉が出なくなる。代わりに口を開いたのは絵理だった。

「御堂君は...?もし危ないなら魔特に連絡して、一緒に離れないと...」

 閃は2人に笑顔を向けて頷く。

「はい。ただ剣次さんたちは探さなくてはいけませんから、見つけたらすぐに離れます。だから...お二人は先に。それでは」

 そう残すと閃は祭りの方へと走って行ってしまった。残された2人は顔を見合わせる。

「どうしようか」

「嘘だとは思えないし、たぶん何か起きてるのは本当かも...。でも私たち2人だけ帰るわけにはいかないよ」

「まあちょっと大げさに言ってるだけかもね。絵理が動けるようになったら私たちも山神たち探してみよっか」

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