3章 第4話 始まりは夏祭り④

 山神は閃たちと連絡を取ろうと試みるも、大勢の人がいるせいかなかなか連絡が繋がらなかった。

「ごめん...。わたあめとか後にすればよかったね」

 円香が申しわけなさそうに言うが、山神はあまり気にしていない様子で首を横に振った。

「まあしょうがねぇよ。電話も繋がらないし、2人で見て回ろうか。そのうちばったり会うだろ」

「そうだね」

 たまたま二人きりになり、円香はやはり浴衣で来ればよかったと思うのだった。



 同様に閃たちもはぐれたことに気づいていた。明は円香に電話をかけるが繋がらない。

「まったく...あいつらはどこに行っちゃったのよ」

 明はスマホとにらめっこしながら口を尖らせる。閃と絵理は周りを見渡すが、当然2人の姿は見当たらなかった。

「どうしようもありませんね。最悪3人で楽しみましょうか」

「そうだね...」

 絵理は嬉しさと不安の混じりあった複雑な表情を浮かべる。人数が少ない分閃と話しやすい反面、話せないとなんとも言えない空気になるからだ。結局緊張して未だまともに話せてはいなかった。

(御堂君優しいし、大丈夫。う...緊張してなんか気持ち悪くなってきたかも)


「絵理さん...?顔色が悪いみたいですが、大丈夫ですか?」

 見ると少し息が上がって辛そうな様子だ。絵理は黙って頷くが、閃は少し考えると近くの出店の方を向いた。

「少し飲み物を買ってきましょう。お二人は近くで待っていてください」

 離れていく閃と絵理を交互に見て、明は不満そうに話し出した。

「あのさあ、絵理。あんた本当に御堂君と仲良くなりたいわけ?せっかくの祭りなのにさ」

「わかってる...けど...」

「けど...じゃないよ。いつもみたいに話せばいいじゃん。だからいつも中途半端に終わっちゃうんだよ」

「私だって。憧れのまま終わらせたくなんてないよ!」

「だったら...」

 段々とヒートアップし、2人の口調も強くなっていった。

「あれ...?」

 しかしその途中、急に絵理の身体から力が抜けて体勢が傾いた。明がとっさに手を伸ばすが届かない。倒れ込みそうになる所を戻ってきた閃がギリギリで支えた。

「絵理さん!?」

 倒れた絵理自信も状況が飲み込めない様子を見て、閃は何かに気づいたように表情を変える。突然の出来事にうろたえる明の方を向くと、落ち着かせるように優しい声で話しかけた。

「ここでは目立つので、少し離れた所に連れていきましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る