3章 第3話 始まりは夏祭り③

 合流した5人は出店を眺めながら適当に歩く。花火までは時間があるため、いろいろと見て回る予定になっている。明と絵理は閃に興味津々なこともあって、山神と円香の2人で話していた。

「円香は浴衣じゃないんだな」

 山神は円香と女子2人を見比べる。

「うん、お母さんたちの所に行っててちょっと時間なくて。浴衣姿見たかった?」

 円香は少し意地悪そうに笑って聞くが、彼女の予想に反して山神は真剣に答える。

「そういえば昔見たくらいだから、また見てみたい気もするかもな。きっと似合うだろうし」

 おそらく深い意味はないのだろうが、その言葉に円香は動揺する。

「えっ...。そ、そうだ!わたあめ食べよ。私、大好き」

「お前が食べてるの見たことないけど...?」

 怪訝な顔をする山神を円香は引っ張っていく。


 一方、閃は2人...主に明の質問攻めにあっていた。少し困りながらも丁寧に返答している。

「やっぱ御堂君ってモテるでしょ?彼女とかいるの?」

「いえ、そんなことはありませんよ。彼女もいませんし...」

「うっそ!じゃあ気になってる人も?」

「いませんね」

 明はうんうんと頷くと絵理に向かって親指を突き立てる。その意図を汲んだ絵理は、軽く深呼吸して口を開いた。

「じゃあ、好きなタイプ...とかは?」

「そうですね...一途な人でしょうか」

 閃の言葉に絵理の表情は引きつる。

「それとしっかりと内面を見てくれる人はやっぱりいいと思います」

 明が話を聞きながら絵理の方を見ると、彼女は半分魂の抜けたような状況になっていた。驚いた明は小声で絵理に話しかける。

(絵理ー!?せっかくいろいろ聞けてるのにどうした)

(だって...私タイプと真逆じゃん...)

 ミーハーでイケメンを好む絵理の性格は一途とは到底言い難い。夢中になっている時はその人のことしか見えていないのだが、それが世間が言う一途とは違うことは本人も自覚していた。

(バカ!そんなこと言ってたらキリないっての)

 2人の内緒話に気づいていない閃は、気になる屋台を見つけると楽しそうに看板を指差す。

「型抜きってなんでしょう。気になりますね...。行きませんか?」

 笑顔で誘う閃に絵理は顔をほころばせる。

「う、うん」

 語尾にハートマークが付きそうな返事をする絵理を見て、明は思わず頭を抱えた。なんとも調子のいいやつだ。



「あれ...閃たちは?」

「そういえばどこに行ったんだろ...」

 そしてせっかく合流した5人は見事にはぐれてしまうのだった。

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