3章 第2話 始まりは夏祭り②

「山神が1人養成校の子を連れてくるってさ!」

 明は山神からのメッセージを見ると、2人に明るい声で伝える。絵理は期待して興奮気味に話し出した。

「もしかしたら御堂君の友達が来るかも!そしたら連絡先とか...キャー」

 その本人が来るのだが、もちろんそのことは知らない。そんな絵理をスルーして、明は円香の顔をじっと見た。それに気づいた円香が首を傾げる。

「どうしたの?」

「いや...円香もなんか嬉しそうだなって」

「えっ?」

 円香はそんなに表情に出ていたのかと顔を触る。そして少し微笑んだ。

「うん、嬉しいかも。剣次はさ、少し前までは誘っても断ってばっかだったから」

 言い終わってから円香はハッとする。いつものようにいじられるかと身構えるが、明は表情を変えずに頷くだけだった。

「そっか。せっかくだしいい思い出にしようぜ」



 夏祭りの当日、山神と閃の2人は先に待つ女子3人と現地で合流することになっていた。夏祭りは大きな神社から周りの公園、道などにも出店が並ぶほど大規模なものだ。最後には花火も上がる夏一番のイベントと言っても過言ではない。

「凄い人だな...」

「ええ!」

 ちょうど出店が並び始めるに辿り着いた2人は当たりを見渡す。少し人混みが嫌そうな山神と対照的に、閃は目を輝かせている。誘った時の様子からも、そもそもあまり来たこともないのかもしれない。

「あっ、あの3人ではないですか?」

 閃の視線の先には彼らを待つ3人の姿があった。明と絵理は浴衣姿、円香だけは私服だ。

 お世辞にも普段お淑やかとは言えない2人だが、浴衣姿なだけでそう見えるから不思議だ。3人は山神に気がつくと閃の方に目を向けた。閃に気づいた絵理は固まっている。

「お待たせ」

「おっす山神。そっちの人が...?」

 閃は山神の前に出て自己紹介をする。

「はじめまして、御堂閃です。剣次さんとは養成校でご一緒させていただいてます」

 丁寧にお辞儀する閃に、円香と明も同じように自己紹介した。ついで絵理の番になるが、落ち着かない様子で明の後ろに隠れている。

「えっとこの子は絵理です。ちょっと緊張しちゃってるみたいで...」

 円香が変わって紹介すると閃は笑顔で挨拶を返した。

「よろしくお願いします。円香さん、明さん、そして絵理さん」


「絵理大丈夫?御堂君って絵理が言ってた人じゃ...」

「そ、そうだよ。ままままさか本人が来るなんて...かっこよすぎて直視できない。はあ...」

 突然の憧れの人の登場に、絵理は完全に動揺しきっていた。実は彼女は本人を前にすると全く話せなくなるタイプなのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る