3章 第1話 始まりは夏祭り①

 夏休みに入った都立第二高校には、汗だくで部活に励む生徒の姿が見られた。都立高校の中でも特に部活が盛んな高校なだけはある。

 そんな生徒たちを横目に、山神は汗だくでランニングをしていた。もちろん部活の練習に参加させられているわけではない。

「まさか...こんな基礎体力づくりまでやらされるとはな...」

 魔特の試験には体術も含まれる。魔術重視といえ特殊部隊、身体能力の高さも求められていた。現代の凶悪犯には凶器を強化するタイプも多く、特に重要視する隊長も多かった。それもあってか養成校でも指導されることになっていた。その一環として炎天下の中ランニングさせられているのだ。

「あっつ...」

「ランニング自体は構いませんけどね。さすがに夏場以外にして欲しかったです」

 閃もだいぶ暑さにやられているようだった。しかし汗をかいても変わらず爽やかである。部活中の女子生徒の中には、逆に目を奪われている人もいた。


「そういえば剣次さんは今年の夏どこか行く予定はありますか?」

 ランニングの後、魔術を応用した体術の授業があり、消耗した生徒たちは各々解散していた。閃は水分補給をしながら山神に尋ねる。

「そういえば養成校も休みになるんだったな。あー...明後日の夏祭りに誘われて、誰か呼べって言われてたんだった...」

 山神は思い出すと頭を抱える。実は円香、明、絵理の3人に夏祭りに誘われていたのだ。しかも男子生徒を連れてこいという指令付きだ。本当ならクラスの友人を連れていきたいところだったが、それは却下されてしまった。

「そうだ!閃、お前一緒に祭り行かないか?他にいなくてさ」

「僕ですか?」

 突然の誘いに閃は戸惑いの表情を浮かべる。

「もしかして先約があるとか?」

「いえ、そうではなくて...」

 閃は首を振る。少し悲しそうだと山神は感じた。

「実はあまり遊びの誘いを受けたことがないんです。少し遠慮されてると感じることも多くて」

 前に山神が名前を聞いた時に驚いたように、御堂といえばかなり有名な家系だ。同級生には特別な目で見られるのことも多かった。彼自身は普通に接していても、知らず知らずのうちに壁ができることも少なくなかったのだろう。

「そっか...じゃあ丁度いいかもな。あいつら遠慮とかしないから驚くぞ」

 山神の言葉に閃は笑顔を見せた。とても嬉しそうだ。

「それはいいですね。僕で良ければ喜んでご一緒させていただきます」

「きまりだな」

山神も同じように笑った。


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