2章 おまけ 円香の日常

 期末テストが終わり都立第三高校の生徒たちの表情は明るい。夏休みが近いこともあって、放課後になると特に教室は賑やかだ。

 円香は教室を見渡すが山神の姿はなかった。養成校は変わらずあるため、さっさと向かってしまったのだろうか。

(この間のサボりのこと問い詰めようと思ったのに...)

 突然無断欠席したうえ、何か事件に関わっていたと聞き、円香の心は穏やかではなかった。前の通り魔の件もあり、魔特を目指すにしても変に事件などに首を突っ込まないで欲しかった。

「まーどか!駅前行こ」

「あ、うん」

 友人に誘われて円香は反射的に返事をした。


 円香と友人の2人、東乃とうの あかり西井にしい 絵理えりは人気のカフェで会話に花を咲かせていた。2人とも成績や魔術は並で、いわゆる普通の女子高生だ。円香が知り合ったのは高校に入ってからだったが、この2人とは特に仲が良かった。

「それで、最初から二股かけてたわけ!ほんと最低!」

 明は熱くなって飲み物の容器を強く握りそうになる。円香はそれを心配そうに見つめる。一方で絵理は明の話にうんうんと相づちを打っていた。

「別れたの?」

「当たり前でしょ。...はあ」

 熱が冷めると明はため息をつく。やはり少なからずダメージはあるようだ。

「今度はいい人見つかるよ」

 円香が優しく微笑みながら言うと、明は頷いてから口を開く。

「ありがと。そういえば絵理のエースストライカー様は?あんた相当張り切ってたじゃん」

「彼女いるみたいなんだよね。そして...時代はスポーツマンよりインテリ男子でしょ!」

 言い切る絵理を見て円香と明は苦笑いする。流行に敏感でミーハーな彼女には珍しいことではなかったからだ。絵理はスマホに写真を表示すると、二人に見えるようにテーブルに置いた。

「見て見て。一高の御堂君!魔特養成校にも行ってるんだってさー。もう...本当にカッコいい...」

「ほーん」

 目がハートマークの絵理の言葉を明はあまり興味なさそうに聞き流す。しかし絵理は構わず話しまくる。これもいつものことだった。

(養成校...剣次の知り合いだったりするのかな)

「養成校って言えばさ...」

 明は絵理を遮って円香に目を向けた。

「円香って山神と付き合ってるの?」

 まるで心を見透かされたかのようなタイミングで円香は飲み物を吹き出しそうになる。待ってましたという感じに絵理も身を乗り出して話題に乗った。

「そうそう!結構一緒にいるよね」

 2人の追求に円香は激しく首を振って否定する。

「いやいやいや。そんなんじゃないから」

「本当に?」

「本当に!」

「そっか、じゃあさ...」

 明は少し俯いて頬を赤らめた。

「私...山神に告白しようかな」

 円香の表情が曇る。その変化に気づかずに明は続ける。

「前は魔術実践サボっててそういう奴なのかなって思ったけど、今はちゃんと出てるし、むしろ私が苦戦してる時に教えてくれるしさ。この間も別れてすぐの時も気づいて心配してくれたんだ。結構...カッコいいし...。応援してくれる?」

 絵理は明の手を取って頷く。しかし円香は肯定も否定もできずに黙ってしまった。

「円香...?」

「いや、それは...」

 明と絵理は不思議そうに円香を見つめると、ニヤリと笑った。2人を見た円香は困惑する。

「「んもー可愛いなー円香ちゃんは」」

「...は?」

 2人の魂胆に気づいた円香は顔を真っ赤にした。

「嘘でも応援するって言わないあたりが分かりやすいというかなんというか...」



「ふ た り と も!!」

 このあと2人が1週間近く謝り続けたのは言うまでもない。


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