2章 第14話 終幕と暗躍

 3人は本部を出ると、火野は1人向きを変えた。

「水希が入院している病院は向こうなんだ。俺は寄ってから帰る」

「それなら...」

 俺も...と繋げようとする山神を閃は制止する。山神にアイコンタクトすると、山神は意図に気づいて頷いた。混乱している状態で自分たちが行くことは控えるべきだと思ったのだろう。

「今度僕たちもお見舞いに行きますね」

 火野は少し黙っていたが、深く頭を下げた。

「お前たちのおかげで水希を助けることができた。...ありがとう」

 山神と閃は驚いたが、顔を見合わせて笑った。その様子に火野は顔を上げるとムッとする。

「なんだお前ら」

「いや、火野も感謝とかするんだなって」

「なっ、当たり前だろ!」

「す、すいません...」

 閃は謝りながらも笑いを堪えていた。

「まあいい。じゃあ、またな」

 手を軽く振ると病院の方に向かって行った。ぶっきらぼうに言うが、火野に以前のような敵対心はなかった。2人は後ろ姿が見えなくなるまで見送った。


 山神は閃と別れて帰路についていた。閃は水希が立ち直れるか心配していたが、山神は大丈夫だろうと思っていた。理解ある光来とそして火野が付いている。

(魔術における劣等感か。他人事ではないよな...)

 自分だってたまたま養成校に推薦されていなければ、似たようなことをしたかもしれない。そんなことを思うと山神は1人ゾッとしていた。そして人の悩みにつけ込み、薬物で利益を得ているような組織は許せなかった。

(魔特に...ならないとな)

 山神は1人静かに、しかし強く思うのだった。






「はあはあ...ちくしょう」

 山神たちが水希を見つけ出した日の夜、同じ廃倉庫の周辺で息を切らす男がいた。

「久々の上客は知らんガキ共に奪われるし、魔特にも追われてるってのにいったいなんなんだよ...」

 男は物陰に隠れて呟く。彼は水希と接触した組織の幹部だった。紙袋を抱え、左腕には血が滲んでいる。

「撒いたか?なら今のう」

 逃げ出そうと物陰から出た男を誰かが蹴り飛ばした。男は派手に転んでうずくまる。

「待てよ悪党」

 声の主は男に刃物のようなものを向けた。男は起き上がると相手を睨みつける。

「あ、悪党だと!お前は傷害事件起こしまくってる野郎だな。お前の方こそよっぽど悪党だ」

 男は紙袋を左手に持ち帰ると、右の掌から電撃を放つ。しかしもう一人の男はそれを簡単にかわすと刃物を振るった。切り裂かれた男は血を流して気絶する。気絶はしたものの命に関わるレベルのものでは無いようだ。刃物を持った男は手早く拘束した。


「違う。これは正義だ」


 男はわざと派手に音を立てると、すぐに闇の中に消えていった。



~3章に続く~

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