2章 第11話 彼女を止めろ
「火野君...」
水希は呟く。火野は彼女に駆け寄ろうとするが、思わず足を止めた。彼女が恍惚の表情を浮かべていたからだった。
「見て...私の魔術なんだよ...。これならみんな認めてくれる」
水希の足元から何本もの水の柱が湧き上がった。まるで大きな蛇のようにうねっている。
「魔力を上手く制御できなかった。でもこの薬を使えばこんなに上手く操れるんだよ?これ...私すごいよね」
よく見ると足元には錠剤に注射器のようなものまで無造作に置いてあった。
「使ってしまったんですね...」
閃はそう言うと身構える。火野が水希を怒鳴りつけた。
「それを全部捨てろ水希!一緒に帰るんだよ!」
水希の顔から笑みが消え、凍りつくような目で火野を睨みつけた。2人のツーショット写真からは想像のつかない顔だった。
「...火野君でもそれはできない。これがあれば私だって、養成校に選ばれるんだから!」
その瞬間、水の柱が3人に襲いかかった。それぞれが後ろにかわすが、反応の遅れた火野は派手に吹っ飛ばされる。
「火野!」
火野はすぐに立ち上がると、両手で火の玉を作り出し、水希に向けて飛ばす。それに合わせるように山神は風のクナイを飛ばした。しかし水の柱は水希を守るように動き、簡単に防がれてしまう。
「これなら!」
今度は閃が手を合わせると、地面に魔法陣が浮かびあがる。そしてそこから無数の火の鳥が飛び立った。火の鳥は渦のように水希を囲むが、今度は湧き出る水を球体のようにして自身の身を隠した。火の鳥は無惨にも水の球体にぶつかって消えてしまう。
再び水が柱状に戻ると、水希の姿が露わになる。満足そうに笑みを浮かべていた。
「おしまい?」
その言葉とともにさらに水の柱を出すと、再び3人に向けて伸ばした。火野は同じように炎の柱を伸ばすが、水希の水の柱は蛇のようにかわすと、そのまま火野に向かう。
「くっ」
直撃寸前で山神が盾魔術で防ぐも、2人は衝撃を受ける。2人に攻撃が集中していた事で無事だった閃が叫ぶ。
「一旦引きましょう!」
水希の前に魔法陣が浮かびあがると、軽く爆発が起きて土埃が舞い上がった。その隙に3人はコンテナの陰に身を隠した。水希は土埃で咳込んでいた。
「水希の魔術にはパワーがあるんだ。コントロールが下手だったのに今の状態じゃ太刀打ちできねぇ」
「おまけに僕と火野さんは炎の魔術。相性が悪すぎます」
2人は山神を見るが、山神は申し訳なさそうに言う。
「強い魔術を使えないこともないけど、正直通用するか怪しい。失敗したらそれまでだ」
火野が地面を叩きつける。彼女を助けたいがどうしようもないもどかしさを表しているようだった。
「水の柱は地面から出ています。どうにかして地面から離せれば...」
閃の言葉に山神は何かに気づいたように顔を上げた。そして2人の顔を見る。
「どうにかできるかもしれない」
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