2章 第8話 消えた少女

「今日も急に休みなのか...」

 山神は驚いて思わず声に出す。連続して養成校の授業は急に休みとなっていた。隣にいる閃は理由を知っているのか、やっぱりかという表情だった。

「剣次さんもニュースで見たでしょう。連続傷害事件のこと」

 山神は頷く。

「あの指名手配犯とかが狙われてるやつだよな。でも関係あるのか?」

「指導員の方たちは本来は事件捜査ではなくて、魔特の教育面を担当される方達なんですが、どうやら人手が足りなくて駆り出されているようですね。先日の通り魔のこともありますし、一刻も早く捕まえたいのでしょう」

 魔術を悪用しようとする者は少なくないため、犯罪が短期間に何件も起こることはよくあることだ。しかしながら最近は凶悪なものが多いと山神は感じていた。昨日の円香の様子が頭に浮かぶ。

「ここにいても仕方ありませんし、帰りましょうか」

「そうだな」

 2人は部活をしている生徒などを見ながら、第二高校を後にした。


 道を歩いていると閃が何かに気づいて指を指した。山神はその指の先を見る。どうやら交番の方に何かを見つけたようだ。

「どうしたんだよ。交番なんて珍しくないだろ」

「違いますよ。あれ火野さんじゃないですか?いったい何してるんでしょう」

 火野の名前を聞いて山神は改めて交番の方を見る。すると確かに火野と警官が交番の前に立っていた。揉めている訳ではなさそうだが、何やら火野が必死に訴えかけているようだった。いつもとは違う焦ったような表情だ。2人が近づくと少し会話が聞こえてくる。

「その件は魔特の方が捜査権限を持っていますので...」

「だから魔特は今そんな状況じゃないだろ!警察でいいんだ。頼むからアイツを捜してくれよ!」

 かなり熱くなっているようで、放っておくと警官に掴みかかりそうだ。その様子に閃が危ないと思ったのか、交番の方に走っていく。山神も慌てて閃を追いかけた。

「落ち着いてください。いったいどうしたんですか」

 突然現れた2人に火野は驚く。一方で警官は知り合いが来たことにホッとした様子だった。

「御堂と......山神か」

 この状況でも山神は火野にしっかりと睨みつけられていた。


「何かあったんですか?」

 交番を離れ、3人は少し空き地のようになった場所に移動していた。閃が問いかけると火野はスマホの画面を見せてきた。どうやら写真のようだ。

「こいつ見たことないか?」

 写真には火野と同じ年くらいの少女が写っていた。2人はとても楽しそうに笑っている。

「この子...養成校帰りにぶつかった子じゃ?」

 山神はあの時のことを思い出す。あの時にぶつかってきたのは間違いなく彼女だった。

「どこでだ!?」

 その瞬間火野が血相を変える。2人から見ても明らかに焦っていた。

「とりあえず落ち着けよ。この子が一体どうしたんだ」

「落ち着いてられるか!もう1週間も家に帰ってねぇんだよ!」

 その言葉に山神と閃は思わず目を見開く。火野はさらに続ける。

「前に会ったとき明らかに様子がおかしかったんだ。もしかしたら何かに巻き込まれたのかもしれねぇ。魔特には伝えたけど、今はこっちに手を回せないんだよ。手遅れになったら...」

 火野は言葉を切るとその場を後にしようとする。しかし山神は火野の肩に手を掛けて制止した。

「待て、詳しく聞かせろ」

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