2章 第7話 過去の事件と
7年前、ある手紙が魔特に届いた。内容は禁術を記した書物をある組織に明け渡せ、そうしなければ無差別に都民を襲うというものだった。魔術には感覚で使用できるものと、正式な手順を踏んで初めて使用できるものがある。魔法陣などは後者に分類されるものだ。しかしあまりに強力かつ危険なものは、広く知られることのないように、そういった書物に纏められて厳重に保管されていた。手紙を送った犯人の捜査をしながらも、タチの悪いイタズラだろうと思われていた。しかしその1週間後に都内で魔術による大規模な爆発が起きた。その事件により、手紙の組織が現実に存在することとただの脅しでないことが証明された。
その後魔特は正式に対策本部を作り、その隊長となったのが月見勇真、副隊長となったのが山神剣人だった。2人は多くの凶悪事件を解決に導いた、その当時の魔特のエースだった。2人の主導の元、この事件の捜査が進められていった。書物を渡すという取引に当然魔特は応じなかったため、犯罪組織は様々な場所でテロ行為を行った。被害や怪我人は出たものの、2人の働きにより最小限に抑えられ、事件の度に組織のメンバーを確保することに成功していた。当初数十人はいると思われていたメンバーも残りわずかまで減らすことができた。
そしてその最後のメンバーが起こそうとしたテロ行為を未然に防ぐ事ができた山神剣人は、犯人達と対峙した。しかし複数人を相手にすることはできず、そのリーダー格の男性と刺し違えてしまった。残った3人のメンバーは逃げ出し、月見勇真や他の魔特が駆けつけた時には既に息絶えていた。この事件を最後に、この犯罪組織による一連のテロ行為は終わりを告げたが、逃げ出した3人とリーダー格とは別に首謀者と思われる人物は行方をくらませた。
その2年後、つまり今から5年前、家族で出掛けていた月見一家が襲われた。犯罪組織の残党、残りの3人のメンバーによる復讐だった。咄嗟に娘の円香を守った母親の由紀は犯人の魔術によって心臓を貫かれ、魔術で3人を拘束した父親の勇真も犯人の魔術をかわすことができず、助からない量の出血だった。近くの人の通報によって駆けつけた魔特により、3人の犯人は確保されたが、生き残ったのは円香1人だけだった。彼女はただ茫然と立ち尽くしていたが、やがて気絶してしまった。
話し終えた山神は飲み物を飲んでため息をつく。円香は黙って聞いていたが、明らかに顔色が悪くなっていた。
「おい...」
「大丈夫...。やっぱり私あの場にいたんだね。目の前で...」
山神は顔を伏せる。気絶した事で円香の記憶は不鮮明だった。ショッキングな出来事がせめて目の前で起きたことだと思い出さないように、円香の祖父母など周りの人間は本当のことを言わないでいたのだ。
「知ってて黙ってた。ごめんな」
「私のためだって分かってるから。教えてくれてありがとう」
円香は震える声で言った。飲み物を飲もうとグラスを持つが、手が震えて今にも零れてしまいそうだった。山神はその手を上から支える。だんだんと震えは収まり、円香は目を閉じて深呼吸をした。
「...大丈夫。ごめん、私は先に帰るね。また今度ゆっくり話そ」
円香は席を立つと、1人で帰っていってしまった。残された剣次は頭を抱えた。いつかは話さなくてはいけないことだったが、やはりあの様子を見ると胸が傷んだ。
(本当だったんだ。覚悟してたけどやっぱりショックだった)
円香は自宅に向かいながら考えていた。あれだけの事件だ、どうしたって情報が耳に入ってきてしまった。それでもやはり目の前で両親が殺されただなんて思いたくなかった。
(剣次にも心配かけちゃった。謝らないと)
ふと山神が震える手を支えてくれたことを思い出す。円香は少し顔が熱くなるのを感じた。
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