2章 第5話 養成校の日常
「こう...?いや、何か違うだろ」
「こうですって。円の中に三角形を3つズラして重ねるんですよ」
「上手くいかねー」
都立第二高校の校庭の端で、山神、閃、そして養成校の学生何人かが集まっていた。彼らは紙とペンを片手に、何やら図形のようなものを描いている。今日は土曜日で、午前中に授業を終えたあとに残っていたのだった。
「魔法陣はしっかりとイメージできないと魔力で描くことができませんからね」
閃は紙に描かれた図形を指差して言う。円の中に3つの三角形が描かれていた。そこまで複雑な模様ではない。
「形は分かるんだけど、実際に発動できないな...」
1人が困った様子で言った。足元に図形が浮かび上がり少し光るが、何も起きずに消えてしまう。
「なんで失敗するんだ?」
一方で彼が失敗する原因が分からない様子の山神だったが、挑戦すると上手く発動させることが出来ていた。
魔法陣とは、今彼らが描いているような円を基調にした図形を用いた魔術のことだ。しっかりと図形のイメージを持ち、それを魔力を使って描くことで完成する。魔法陣の中から魔術を飛ばしたり、地面に描いてその中にいる自分を外側の魔術から守ったりすることができる。難易度が上がるが自分の近くだけでなく、離れた場所に描くことも可能でとても便利ではあるのだが、魔術で簡単に消されてしまう。
「今日はこの辺にしておきましょうか」
何度かチャレンジした後、解散となった。いつもはそんなに苦戦する様子を見せないメンバーだったが、今回はそうはいかないようだった。
「意外とみんな苦戦してるんだな...」
山神が意外そうに呟く。
「きっと必要ないと思って避けてきたんでしょう。指導員の方はそれをちゃんと分かっていましたね」
養成校の生徒達のように、魔力や魔術が優れている人はわざわざ魔法陣を描かなくてもシンプルで強力な魔術を使用できる。そのため魔特の試験でも意外とつまずく人が多かったりもするのだ。
「それにしても剣次さんは余裕でしたね。さすがです」
魔術の威力で後れを取りがちな山神は、今回は少し優越感に浸っていた。高燃費ではあるが、魔術の腕前自体は劣っているわけではない。
「ただ魔法陣は魔力消費量がな...。残念だけどあんまり使えない」
「その辺はこれから探っていくしかありませんね。途中まで一緒に帰りましょうか」
二人が会話を終えて帰ろうとした時、1人の女子生徒が山神にぶつかった。女子生徒は激しく転ぶ。
「うわっ。すいません、大丈夫ですか?」
声をかける山神をよそに、女子生徒は慌てて立ち上がると、山神達の方を見ることなく、少しふらつきながら走っていってしまった。
「なんだったんだ...」
「さぁ...?」
(それにしてもこんな広い場所でなんでぶつかったんだ?)
謝られなかったことよりも、そのことが山神には少し気になった。
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