2章 第3話 組手
「それでは始める。分かっているとは思うが、あまりに危険な場合は止めるからな」
指導員が注意をし、山神と火野は組手の準備をする。2人は10mほど距離をとって向かい合い、指導員の合図を待つ。真剣な表情の山神とは対照的に、火野は余裕の表情を浮かべる。
(火野は戦闘に自信があるタイプだろうな。だからこそ、ここは先に仕掛けさせてもらう)
「では、始め!」
指導員の合図の直後、山神は自分の後ろに向かって風の魔術を放った。その勢いで山神の体は大きく前に飛ぶ。
「なっ!?」
急に間合いを詰められて驚く火野に、山神は蹴りを入れた。しかしギリギリのところを腕で防がれ、その腕を大きく払って距離を取られる。
「てめぇ」
今度は頭に血が上った火野が突っ込む。それに構わず、山神は両手に風のクナイを作り出し、火野に向けて放った。反応が遅れた火野は、片方をもろに受けて吹き飛ぶ。クナイと言っても、魔力によって風に形を与えたものであるため、刃物のように刺さることはなく、当たると今の火野のように大きな衝撃を受けたように吹き飛ぶ。これにはおぉーと周りで見ている生徒からも歓声が沸いた。
山神はさらに風のクナイを作り反撃に備えるが、急に山神の足元に丁度マンホールくらいの大きさの魔法陣が浮かびあがった。とっさに後ろに下がると、そこから炎が上がる。
「あちぃ」
かわしたものの、その熱を感じる。
「チマチマやりやがって...。魔術ってのは」
立ち上がった火野には、さっきまでになかった迫力があった。
「こう使うんだよ!」
火野が右手を振るうと、炎が大きな刃のように前に飛んだ。山神は屈んでこれを避ける。続いて両手を前に出すと、掌で火の玉を作り出す。それは徐々に大きくなり、すぐにバスケットボール程の大きさを越える。
「させるか!」
山神は風のクナイを投げるが、同時に火野も火の玉を山神に向かって飛ばす。飛ばしたクナイは火の玉にぶつかり、勢いに負けて消えてしまう。
山神は火の玉を避けようと試みるが、それを阻むように炎が上がる。火野の魔法陣を使用した魔術によるものだった。
「くそっ」
山神は盾魔術で火の玉を防ぐが、ぶつかった火の玉はボンっと爆発し、思わず腕で顔を覆う。山神が顔を上げると、目の前には火野の手があった。山神の敗北だ。
「やめ!これは火野の勝ちだな」
周りからは歓声と拍手が起こる。どちらを応援していたというよりも、単純にいい戦いを見れたといった反応だ。火野は手を下げ、山神に向かってきっぱりと言った。
「ここはお前みたいな高燃費の優等生が来るところじゃねぇ」
山神には悔しさとともに、周りとの差を実感する組手となったのだった。
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