さて、体というのは本当に面白い。今度は起きろと煩く言ってくる。まだ1時間しか経っていないじゃないか。しかし体には勝てないし、脳が冴えてしまったのだからもう暫く眠ることはできない。

今度は起き上がる気力も、気も起きず目を開けたまま寝転がっていた。


私は「地球最期の日」に思いを馳せていた。思い返して感傷に浸るほどの人生ではなかった。年齢的にはまだまだこれからなのだろうが、最期なのだから「これから」はない。もう今日で終わりなのだ。

思えば何と無くこの世に性を受けて何と無く生活してた日々だった。世間の赴くままに私も動いた。自分の意思で何か物事を選ぶなんてことをしたことがない。全て世間に身を任せていた。

それがなんだ。今まで私は忠実に世間に従っていたのに、世間は裏切りはじめたのだ。いや、どこか私の気付かない所で歪みが起きていたのかもしれない。その歪みに気付く頃には取り戻せないところまで歪んでしまったのだ。

坂を勢いよく降る様に私は世間から見放され、いわゆる「引き篭もり」というものになってしまったのだ。だが、仕方がないことだった。この世間に私の居場所などもうないのだから。この「引き篭もり」という選択も世間が最後に私に言い渡したことだ。何の問題もない。しかし私はこんなにも酷いことをされても世間に忠実だ。地球最期の日まで忠実な人なんて私以外いるだろうか。


さて、私は人生を思い返すのも飽きてきた。特徴的な人生ではないからだ。私の人生なんて所詮どうでもいいのだ。

太陽は天井に隠れた。内気なのか。今が一層輝きを増す頃なのに。


時計の短針と長針が重なり合った時、数回鐘が外で鳴った。まだこの町は生きていたのかと驚いたが、よく耳を澄ませば井戸端会議の話し声すら聞こえてくる。私がこの町に興味が無く、勝手に思い込んでいただけで、本当はずっとこの町は生きていたのだった。


生死と言えば、私は携帯を持っていたはずだ。ずっと前に充電が切れた携帯だ。生か死かと言われたら死んでいる携帯だろう。布団の中を探しても無い。緩々と起き上がって部屋を見渡した。しかし案外早く見つけられた。机の上だ。

起きろと信号を送るが反応がない。当たり前だ。死んでいるのだから。

蘇生するためのものは真横にあり探す必要はなかった。携帯にプラグを刺し、暫くしてからもう一度信号を送った。すると明るく画面を照らし始めた。生き返ったのだ。

しかし何も変わっていなかった。画面の中で友人と笑っている自分、好きだったアーティストの写真、更にはメールも電話の通知もなかった。全てこれが死ぬ前のままだったのだ。私はこれは今も死んでいると判断した。

落胆し、プラグを抜いた。暫くして画面が真っ暗になった。それを見届けると私はまた布団の横になった。うん。寝れそうだ。本日二度目の昼寝につこう。


太陽は先程の窓とは反対の窓から顔をのぞかせていた。

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