第212話 ラスティン31歳(謎の液体)


「そして、その世界が彼らの望む世界である事が確認出来れば、軍団を送り込むのだろうさ・・・」


「なっ!? 幾らなんでもそれは想像力を働かせすぎなんじゃないか?」


「彼がエルフ達に忌み嫌われたり、シャイターンの門がこの世界に開いている事自体が証拠だと思うけどね」


「・・・」


 マッド具合がいつもと違うが、エルネストの考えを否定する証拠は私の手には無かった。ただ同様の推論をぶつける事は可能なんだよな?


「始祖がどんな人物だったかに関しては、議論の余地があると思うが?」


「彼がどんな人物だったかは送り込む方とすれば問題にならないんじゃないかな、お人好しの方が好ましいとも言えるね」


 ちっ、まあ、エルネストの言う通りの面もあるだろうな。送り込む側も、送り込んだ先でも、その方が色々都合が良い場合もあるだろうな。


「始祖が何かの偶然で、使い魔として召喚されたと言う学説を聞いた事があるぞ。まあ、弾圧の対象になる程度には真実を含んでいるんじゃないかな?」


「そんな説があったのか? ああ、始祖が系統魔法をこの世界に齎した、それ以前は僕達はコモンマジックしか使えなかったという常識に則った考えだな」


「異論がありそうだな?」


「ああ、サモン・サーヴァントで呼び出される使い魔だが、メイジの魔法の属性に関連したモノが呼ばれるのを実感しているだろう? 後から来た系統魔法の概念に縛られるのは、不可解じゃないか? スティン、”リーヴスラシル”の力って何だと思う?」


「話が跳ぶな? さっきの生体兵器説を前提にするなら、通常の分かりやすい武器を扱う”ガンダールヴ”、道具に分類される物を扱う”ミョズニトニルン”、そして現地の生物を操る”ヴィンダールヴ”か? 他に軍用と思える力と言えば・・・」


「ABC兵器って言葉を聞いた事があるよな?」


 原子兵器、生物兵器、化学兵器だな・・・? 細菌か毒物、いや、毒物を作るだけなら、錬金でも十分だ。


「細菌兵器、病気を自由に制御出来たとでも言うのか?」


「それは語弊がある言い方だろうね、色々な病原体を作り出せる能力と考えるのが普通だろ?」


「疫病神だな、まるで。本当ならば、確かに言い伝えにさえ残せない話だが・・・」


「スティンは始祖が、始祖たる所以は何処にあると思う?」


 エルネストがいきなり論点を変えてきたぞ、まあ、最後まで付き合ってやるか?


「さあ、色々な逸話が残っているが、宗教的に捻じ曲げられている物も多いだろうからな。一番メジャーなのがあれだな、さっきも出たこの世界に系統魔法をもたらしたという話」


「そうだな、元々この世界の人間はコモン・マジックは使えたと言うのが一般的な考えらしいね」


「ああ、学院ではそう教えていたな」


「系統魔法というある意味技術を伝授した存在を神と崇めるものだろうか?」


 神医などと呼ばれている人間じゃないと考えない発想じゃないだろうか? ただ、系統魔法を伝えただけなら”神”にも等しいとは呼ばれないだろうな。系統魔法程度では太刀打ち出来ない存在がごろごろしているからな、この世界は。例えばエルフ達を始祖1人で壊滅させたとかなら確かに神と呼びたくもなるが、そこまで強力な存在だったのか?


「僕はね、スティン、始祖こそが”リーヴスラシル”の力を使って人間に魔法の力を与えたんじゃないかって思うんだ」


「僕は、始祖が僕達人間に魔法と言う力を与えてくれたんじゃないかと思うんだ」


「!! しかしお前、魔法を与えるって言ったって、どうやってだ?」


「方法は分からないよ、ただ、”リーヴスラシル”の力を使ったんじゃないかな」


「私達はメイジという病気に罹った人間と言う訳か?」


 私の問いに答えず、エルネストは懐から大事そうに一本のガラス瓶を取り出してテーブルの上に置いた。脈絡の無い行動に見えるがエルネストという人間は無駄な事をしない事は私が良く知っている。(知らない人間が見れば無駄に見えるかも知れんがね?)


 その小瓶は透明な液体で満たされているのは分かるが、量的には上手い例えが無いな。10?20ml位に見えるが、私には注射剤んを入れるアンプルの様にも見えた。ああ、医薬品なら丁度目薬のサイズがぴったりだな?(今凄く重要な事を考えた気がしたぞ)


「まさか、これを飲むとメイジになるのか?」


「やっぱり気付いたか? 経口摂取は全然効果が無いみたいだよ、じゃあ本題に入ろうか?」


「長い前置きだったな、しかし、成る程必要な前置きだった訳だ」


「まあね、前置きの部分は実は後付けなんだ。実際はメイジの血液を非メイジに輸血して経過を見ていたら、本当にメイジになっただけなんだ」


 また無茶な事を、輸血と簡単に言うがそう簡単な話でもあるまいに。


「お前らしいけど、何で輸血なんて」


「まあ、メイジになりたいと希望する人間は少なくないという事だな。実際輸血という方法はある程度リスクを伴うから、多用は出来ないんだ」


 ああ、血液型の問題で抗体反応とか出るんだろうな。しかし、さすがは”神医”殿だな、そう言った相談に本当に応えてしまうんだから。


「元々、輸血の方法はかなり前から考えていたし準備も整えていたんだ。クロエの手を借りて、血液を検査する試薬とかも作ったしね」


「随分前から考えていたのだな、何かヒントがあったのか?」


「ああ、ユーグさんを覚えているだろう?」

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