第203話 ラスティン31歳(呼び水)
結局、何も妙案を思い付く事が出来ないまま夕食の時間になってしまった。今晩のノーラは意外と機嫌が良かったが、あの話を持ち出すまでのことだろう。
機嫌が良かった理由は、友人が訪ねて来たからだと言う事を私は知っている。元々、彼女は私に面会を求めて来たのだが、愚痴王が来るのとかちあってしまったのだ。用件は想像が付いたし、どちらを優先すべきかは考えるまでも無かったから、ノーラと会ってもらったのだ。
私はノーラからの報告を受け、そのまま場所を寝室に移した後、とりあえずその話を片付ける事にした。
「グラモン夫人の話は大体予想通りだったよ、元帥に妙な真似をさせない為に打った手だったが、ギーシュ君にはちょっと酷だったみたいだな」
「ええ、貴方」
「しかし、あのギーシュが自分から謹慎するとはね」
「先程も言いましたが、最初は勘当してくれと」
「そうだったな、その件はなんとかするよ。ライルやイザベラ姫の為なら、死ぬ気で働いてくれるだろうからね?」
何故だろう、ライルの名前が出て少しだけ表情が暗くなった気がする。そう言えば最近はライルの話をした事が無かったな?
「はい・・・」
「ノーラ、少し話があるんだけど疲れていないか?」
「ええ、私も少し話したい事がありましたから・・・」
「そうか? ノーラの方からでいいよ」
「いいえ、貴方からで・・・」
こう言う所が私達の悪い所なのだろうな。長く2人でいるだけでは夫婦と呼べないのだろうか?
「今日な、キアラにこう言われたよ。”側室を迎えたらどうか”だそうだ」
「・・・」
「キアラが言うには、それが私達の為になるそうだ」
「・・・」
意外だ、何故かノーラは怒らないぞ? 怒りを通り越して、逆に冷静になったという感じでもない。私の自分でも卑怯と思える話をノーラはただ静かに聞いているだけだった。
「一応言っておくけどね、これはキアラの最後の忠告だそうだ」
「最後?」
「ああ、コルネリウスが引き抜いて行く予定なんだ・・・?」
「スティンに・い・さ・ま」
この呼び方を久しぶりに聞いたな。以前のノーラは、甘えたい時と、何故か凄く怒った時に私を兄様と呼んでくれたのだが、交信の時とか読み違えて凄く怒られた事があったんだが、今は確実に怒っている。怒るポイントが違うんじゃないだろうか?
「あの女がそんな事を言ったのですか!」
「はい、いや、そうだよ」
「兄様は、言われた通りに私にそんな事を言ったと?」
「私なりに考えてだが、そうだね」
「あの女、自分だけ綺麗な思い出にする積りなの!」
いや、綺麗な思い出という感じじゃなかったぞ?
「ノーラ、その呼び方は君らしくない」
「側室の話は、私の方から言おうと思っていました。1つだけ条件を付けさせてもらいますよ?」
「あ、ああ」
「私の納得の行く女性を連れてくる事です。出来ますか?」
「いや、もう少し詳しく」
「兄様の馬鹿、出て行って! 出て行きなさい!」
「ノ、ノーラ!」
「納得の行く答えがもらえない限り、2度とその扉をくぐらないで!」
ノーラの剣幕と枕の連打から逃れる形で、私は自分の寝室から追い出されてしまった。いきなりの出来事で、護衛隊の夜警が杖を構えたまま呆然としていた。ガスパードが居てくれればなんとか治めてくれたのだろうが、自分で自分が叩き出された理由を説明するのは私にとっても実にばばつが悪い経験だった。
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