第202話 ラスティン31歳(最後の忠告)
結局会談の方はまともに話が進まずに、後日再度という話になった。愚痴王から大丈夫かと心配される程だったから、自分の不甲斐なさが情けなくなるが、多分他の転生者に危害が及ぶ事は無いと思う。
当初の目的とは別の意味が生まれたが、学院を案内してもらうのと、”今の”ジョゼフ王をありのまま認識してもらう為に呼び寄せたロドルフと愚痴王を引き合わせた時にもおかしな様子は無かった。(ジョゼフ王の人を見る目が未完成なのか、王には王が良く見えるのか分からないがな!)
普通に娘の同級生に会った父親として振舞おうとして失敗しているのは面白かったし(やっぱり父娘だな)、本当ならば魔法学院にも同行したかったのだが、そう言う気分では無かった。
私は自分がこれ程までに動揺した理由が始めは分からなかった。キアラの忠告もあり、ジョゼフ王に利用された形になったというのもそれ程驚かなかったのだ。私の動揺の原因は、本当に認めたくないが、”キアラ”だった。
私の様な凡才から見ると理解は出来ないが、多分、キアラの才能は愚痴王や若年枢機卿に匹敵すると思う。だが、枢機卿に信仰、愚痴王に家族という絆があるのに対して、キアラにはそれが無い、いや、無くなると言う事が実感出来た。(ゲルマニアに向かうだろうキアラは、何を目指すのだろうか? そして、キアラを失った私は?)
「如何でしたか、ガリア王との会談は?」
「ああ、散々だったよ。キアラの言う通り、止めた方が良かったかもな」
「そうですか・・・」
皮肉に対する切り返しに力が無いな? まあ、それはお互い様か・・・。
「そうだな、これからはキアラの忠告に何でも従う事にするよ」
殆ど当て付けで言ったが、どうせ長い事ではないだろうしな。そんな投げやりな言葉は、キアラの真摯な言葉を引き出す結果になった。
「本当ですか?」
「ああ」
「それならば、側室を迎える事をお考え下さい!」
「なっ! お前何を?」
「これが、私の最後の忠告です」
「そうか、決めたのだな・・・。しかしだな!」
本当ならばしんみりと行く筈の話が、全然そうじゃないぞ!
「側室の話が、あの方の為になるというのはお分かりでしょう?」
「いや、全然分からない!」
キアラが私とノーラの仲を裂く為に言っているとしか思えん! 現状では決裂の決定打になりかねないだろう?
「ラスティン様も男なのですね?」
「それはそうだが?」
私に理解出来なくても、ノーラは理解出来るのだろうか? はぁ、何故こんなに次から次へと発生するのだろう? ナポレオン1世の呪いとかでは無いだろうな?
「一応聞いておくが、その側室候補がキアラというんじゃないだろうな?」
自棄になって我ながら有り得ない事を確認すると、何故か冷たい目で睨まれた。最後の忠告だったものな。
「理想を言えば、無名の平民の女性が良いですね」
「その方が国民受けが良いだろうな、妙な後ろ盾が居ても困るし」
「何でしたら、あのアルビオンの姫君の付き添いの女性でも構いませんよ? 随分と仲がよろしかったそうですから」
誰だ、キアラに妙な事を吹き込んだのは! まさか、明人青年か! 仕返しの積りなのか?
「何を聞いたか知らないが、マチルダ嬢はちょっと遠慮したいな。出来れば別の男性を引き合わせたいと思った位だからな」
「別の男性?」
「ああ、ワルド子爵の息子だよ。まだ独身だったろ?」
「はい、確か弟君の友人でしたね?」
「ああ、歴史というやつだ」
「成る程、ですが」
「歴史が変わったんだ、だからこそ上手く行くかも知れないと思ってね」
「ちなみに、誤魔化されませんよ?」
ちっ、話を逸らそうとしたのに、完全に読み切られている。逆に良い機会かもしれないな、今の私とノーラの状態はお互いにとって良くない。本気で話し合う機会を与えてもらったと思うか?
「分かった、今晩にでも話してみる」
「はい、私の方は、側室の候補を呼び寄せておきます」
やっぱりもう候補を絞っていたらしい、最後の最後までキアラらしいな。だが、今回だけはそうそう思い通りにはならないぞ!
「止めてくれ! 私をエレオノールに殺させたいのか? それより、何故側室が居ると良いんだ?」
「御二人の間の事でしょう、ご自分で考えて下さい!」
私のあまりにも情けない質問にキアラは怒って執務室から出て行ってしまった。いや、多分怒った振りだな・・・。最後まで世話をかけてしまうな。しかし、キアラは何時からこの日の事を考えていたんだろう? 何時キアラが居なくなっても良い様に色々動いていたのは分かっていたんだが。
ダメだな、どうしても現実から目を逸らしてしまう。私とノーラの間に存在する問題は、突き詰めて言えば、私達の間に”子供”が居ないと言う一点なのは分かっている。もし私達がごく普通の平民の夫婦だったなら、万年新婚気分の傍から見れば迷惑な2人で居られたかも知れない。
だが、何の因果か私達は国王夫妻なのだ、普通の貴族の直系以上に子孫を残す事を求められる。これは、多分前世の過去の何処かの国の王や、日本の天皇に対する要請よりももっと重要な物だという事は、この世界に生きている以上実感出来る。(何せココでは、王権の後ろ盾は始祖ブリミルに対する信仰心だからな。くだらないと思うが、始祖の血筋という事自体には意味がある事を否定は出来ない)
そして、夫婦に子供が出来ない場合は、妻の方に問題があると考えるのが(俗説だが)一般的な捉え方だ。エルネストなんかは、それが夫婦自体の問題だと認識しているから、一度診せに来いと助言してくれたのだろう。
私自身もその程度の知識は持っていたが、ノーラの負担を減らす為に、一時期ライルを正式に国王の義子を広めようと企んだ。これ自体は、私自身の不徳で御破算になってしまった。これは非常に微妙な問題なのだが、今は無視しよう。
私が妙な事を企んでいる間にも、多分、ノーラには色々なプレッシャーがかかっていたのだろう。そして、この問題は夫婦にとってはある意味タブーとなる話題なのだ、互いの事を思っていればいるほど、相手にその事を聞けないだろう? 仮に私がノーラに”貴方は子供が作れない身体なの?”と聞かれたら死ねる自信があるぞ!
ああ、キアラはノーラの感じているプレッシャーを弱める為に、側室をと言ったのか? ただ、今となってはその手がどれだけ有効かも疑問だ。ノーラと触れ合う事が出来るか、本当に愛想を尽かされるかどちらかだろう。(私がその側室とやらに手を付けてもつけなくてもな)
この問題の根本的な解決策は、2人の間に子供を授かる事だのだが、最近のノーラは私が触れる事さえ嫌うのだ。それでも、出来るだけ同じベッドで眠るのは、お互いまで未練があるのだと思いたい。時々だが、夜中に目を覚ますとノーラが私の腕に抱きついて眠っているのだけが私の慰めになっている。
しかし、何故あそこまで私を拒む様になってしまったのだろう? あの時以来だという事は分かっているのだ、だが、城内で誰かの噂になるとか、義母に辛いなら戻って来なさいとか言われただけなら、ノーラなら乗り越えてくれると思えるのだが? ダメだ、何故か大切な事が思い出せない! 体調が悪くなる事や、何かを忘れる事を覚悟してあの園遊会に同行したというのに、肝心の事を忘れるなんて!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます