第165話 ラスティン30歳(口喧嘩)
しかし、戦争に行きたがる人間と言うのはどうも理解しかねるな。普通は嫌々なんだろうに、イザベラ姫が自分の将来を考えて戦争に出ると言っているとは思えないんだが。転生者達には、同行してもらう予定だが、戦争に参加しろと言ったら、喜んでとは答えてくれないだろうな。
「ふぅ、ロドルフにはすまないけど、私と同行してもらうからな?」
「はい、僕は戦いには向きませんからね」
「まあ、私達は高みの見物だよ」
「でも、僕やエルネストさんなら話は分かるんですけど、何故、転生者を集めるんですか?」
おっと、これだからロドルフは油断が出来ないんだよな。妙に聡いと言うべきかは悩む所だが。勿論ナポレオン1世の意志に対抗する為なんだが、世界に干渉する意志の力などと言う物がどんな風に働くかなんて、分からないから、全員を集めて現場に連れて行く予定なのだ。
ここは口先三寸で丸め込まないといけないんだろうな。
「そうだな、ここが私たちの知っている世界とは違うって認識して欲しいからかな?」
「どういう意味ですか?」
「私達は、自分達が生きている世界がどんな状態かちゃんと認識しないといけないんだよ」
「おっと、これは薮蛇だったかな?」
生まれ変わった異世界で引き篭もった実績があるからな。ご両親も心配性なんだよ。
「転生者っていうのは、皆変わり者だからね。現実を見る必要があるんだよ」
「そうかも知れませんね、でも、いえ、やっぱり戦争を見るのは辛いですよ」
「いいや、今回の戦争はそれほど酷くはならないよ、説明しただろう?」
「そうでしたね、敵の被害を減らす様な戦略を考える、ラスティンさんもやっぱり転生者ですね」
「そうかもな」
口ではそう肯定したが、我が国の戦術を考えたのはアンセルムだし、戦略を考案したのはキアラなんだぞ。まあ、私がそう要求を出す前に既に方針が決まっていたんだから、今回は私の意志じゃないぞ、多分な?
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余談になるが、イザベラ姫の従軍はあっさり彼女の両親によって認められてしまった。イザベラ姫が自分で説得した事になっているが、絶対にノーラが入れ知恵したんだ。最近何故か元気が無かったから、いい刺激になると思ってカグラさんとの交信を見逃していたのが仇になった形だ。
これはライルにとっても不本意だったんだろうが、これまたノーラに何か吹き込まれたらしく、イザベラ姫を説得するのを止めてしまった。ライルとイザベラ姫の仲が確かなものになるならと妥協した訳だが、2人の将来を考えれば悪い事ばかりでは無いと信じよう。
何となくだがノーラが、何故イザベラ姫に肩入れしたのか分かってはいるんだ。ノーラはイザベラ姫に当時の自分を見ているんだろう、モーランドの乱当時ノーラが何を思っていたかは知ることが出来ないが、どうしたかったは十分に分かった。私としては、ノーラがレーネンベルクに居なかった事を喜んでいたのだがな。
だが、奴には文句を言っておかなくてはならないだろうな! 次の交信は何時だっただろうか?
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「おい。愚痴王」
「何だ、いきなり好戦的だな? 英雄王殿?」
いきなり悪口から入ったのに、速攻で切り返された。しかも本当に嫌味な切り返しだ。
「くっ!」
「英雄と呼ばれて嫌がるとは珍しい奴だな、ラスティン殿?」
これだから、無用に優秀な奴は扱いに困るのだ。いや、愚痴王なんていきなり言ったのは失敗だったな、もう少し嫌味な場面で言うべきだった。
「好戦的にもなるでしょう、何故娘の従軍を許可したのです?」
「何故? 私が王として、許可したのだぞ、何か問題があるか?」
「それは、何かの間違いでイザベラ姫が負傷しても、ガリアとして何もしないと?」
「そうだ、それほど自国の軍に自信が無いのであれば、こちらから護衛を出すぞ?」
ほら、嫌な所を突いて来るだろ? 我が国が、今度の戦争で独自に事を進めようとしている事に感づいているんだろう。情報統制は完璧なはずなんだがな。イザベラ姫がと言うよりライルが参戦するのはマース領方面だから探られても全く問題が無いが・・・。
「その護衛部隊の指揮権は、こちらに頂けますかな、ジョゼフ殿?」
「いや、あれの護衛に専念させる、その為の護衛だからな」
イザベラ姫が兵の指揮でも出来れば良かったのだが、このまま護衛部隊を受け入れたら、自由に探ってくれと言っている様な物だろうな。
「それでは、こちらの指揮が混乱しますね、護衛の話はお断りさせていただきますよ」
「・・・、お前は、私が無責任な親だと思うか?」
「いいえ、イザベラ姫の将来を考えれば、悪くない考えだとは思いますよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいがな、私はあれを止める事が出来んのだ」
「はぁ?」
「分からんか? ”あれ”は、昔から”あれ”にそっくりだったからな」
おい、普通に聞いたら何を言っているか分からないぞ? だが残念ながら私には分かってしまった、アナベラさんの決断によって助けられたジョゼフ王がイザベラ姫の決断に反対出来る筈が無いと言いたいんだろうな。はぁ、こんなだからカグラさんや宰相の手を借りる事になるんだろうに。
「分かりましたよ、ですがイザベラ姫は内面的にはジョゼフ殿にそっくりですよ、気付いていますか?」
「・・・」
あ、黙ってしまったぞ? 誰かに言われなかったんだろうか? 多分、カグラさん辺りから絶対言われたが認めたくなかったからこの反応なんだろうな。
「でも大丈夫ですよ、イザベラ姫には、ウチのライルが付いていますから。貴方に、アナベラ様やカグラさんが付いているようにね」
「そうだったな、世話をかけるな」
「ジョゼフ殿」
「何だ?」
「似合わないですよ?」
「うるさいわ!」
そう言っていきなり交信が切られてしまった。大人気が無い男だな、何故あれが王として優秀なのか理解出来ない。裏で糸を引くという所は変わらないが、それでもガリアは上手く動いているのだ。才能が豊かなのは認めるが、五星と互角に事を進めるというのはどうも納得出来ない。
私の様に部下に丸投げという王から見ると、無性に気に障るのだ。王なんて責任をとる為にいるだと思うんだが、それだけではいけないのだろうな。
===
話は前後するが、ミコト君の目の治療についても触れておこう。ミコト君の目の状態は、網膜はく離に近い状態だったそうだ。物理的に眼球を傷つけた訳では無く、何らかの毒を飲まされたというのがエルネストの見解だった。まあ、こちらの医療レベルでは治療不能だったんだが、というか知識が無く治癒魔法を使うと本気で治療が難しくなるらしい。良く分からなかったが、網膜が異常な状態で固定されて元に戻らなくなるらしい。
「それで、治療は終わったのか?」
「ああ、何が眼球内で起こっているか分かれば、こちらのメイジなら簡単に治せるよ」
「そうか、助かったよ」
「まだ、使われた毒の特定も出来ないし、再発の可能性も低いが残っているからな」
「そうなのか? 目は見えるようになるんだろうな?」
「経過が良好ならね、ただ10年近く目が見えなかったんだから、急には動かせないぞ?」
「そうなのか? 出来れば早めにカグラさんに会わせてやりたいんだが」
「一週間は動かさない方が良いだろうな。それからも暫く激しい運動は控えた方が良い」
「それは、あの娘達も知っているのか?」
「ああ、当然だろう」
どうしたものかな、確かカグラさんも動けないと聞いたんだが、やっぱり2人目なんだろうな。お盛んな事だな、こちらも結構お盛んなのに何故か子供が出来ないんだが? もしかして、これか?
「どうした?」
「いや、カグラさんを安心させたいんだよ」
「そう言う事なら、2週間後だな。別に身体が弱っている訳じゃないから、付き添いの一人でもいれば十分だろう」
「お前が付き添ってくれるか?」
「何で僕が!」
「ガリアには医療に使えるマジックアイテムがあるかも知れないぞ?」
「ふ、ふん、大体のマジックアイテムは調べてあるさ!」
「動揺しているなエルネスト? ちなみにカグラさんのミョズニトニルンの力を使えば、マジックアイテムの別の使い方が見つかるかも知れないぞ」
「・・・」
「妹の目の治療をしてくれた恩人の頼みなら、義理堅いカグラさんの事だから」
「分かったよ、行けば良いんだろう」
ちょろいな、エルネストは昔から”利”では動かないが、”医”では容易く動かせるんだよな。
「何故、僕なんだ? 君の妹なら喜んで付いて行くだろうに」
「ジョゼットはまだガリアには行かせられないし、そろそろ真面目に戦闘訓練をしてもらうからな」
「ああ、そんな事をこないだの会合で言っていたな。ルイズと明人だったか? それに自分の妹まで突入部隊に組み込むとは、王様も大変だな?」
「別に私が大変な訳じゃないがな、単に戦闘力の問題だよ」
「戦闘力ね? いっそ僕たちの義母殿に出張ってもらえば良いだろうに」
「それを私たちの義父殿が受け入れると思うか? それに、ラ・ヴァリエール公爵家には独自でゲルマニアに攻め込んでもらうと言っただろう?」
「そうだったな。あんまり怪我人を出して欲しくないがね?」
「大丈夫だ、犠牲者は最小限にする積りだからな」
「そっちは任せるよ」
こうして、エルネストはミコト君を連れてガリアへ旅立って行った。付き添いの女性が1人増えたが、一応鉄道も通っているからそれ程時間はかからないだろう。妙齢の女性と2人旅は出来ないなんてエルネストらしいな。(まあ、ミコト君はジョゼットと同じ位に見えても実は20代らしいからな、話を聞いただけだと、カトレアが誤解しそうだ)
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