第119話 ラスティン24歳(召喚される者たち)



 後味の悪い出来事が、中途半端な終わり方をして、20日程が過ぎたがあの問題は有耶無耶のままとなってしまった。マリアンヌ様も枢機卿もこの問題を扱いかねているという状態だ。


 一方、私は思いつく限りの、ワーンベルでの工業品生産力向上の対策を講じている所だ。


1.まだ見つかっていない平民メイジを探索

2.他国からメイジの移民を受け入れ

3.兵団を効率的に運用


等を思いついたが、決定力に欠けるのは分かっている。


 1.に関しては、正直雲を掴む様な話だな。レーネンベルク魔法兵団の名声が知れ渡った事で、国内の平民メイジの多くが兵団に所属していると考えて良いだろう。

 多少増減しているが、約10,000人近くなった兵団だがその6割が錬金隊所属で、その他が警備隊、施設隊、治療隊などで活動している。以前より錬金隊の比率が下がっているのは、ゲルマニア対策で警備隊を増強する必要があった為だ。話が逸れてしまったが、国内で平民メイジを探すのは、かなり難しいという結論になってしまうのだ。


 2.に関して言えば、他国からの平民メイジを招く事は意外に難しい事が経験的に分かっている。少なくとも自由意志でトリステインにやってくる平民メイジは現在では殆ど居ないだろうな。

 ガリアでも、アルビオンでも、平民メイジは引く手数多だからな。戦後復旧期のガリアではメイジの手が必要なのは当然だろうし、アルビオンでも繊維織物などの軽工業へのゴーレム技術を使った自動機械が多数採用され、そこに多くのメイジが必要となっているのだ。その他の小国や、ロマリアからもそれぞれの事情で問題がある。

 アルビオンのジェームズ1世陛下からは、少数だがメイジを送ると返事を受け取っているが、まあ、本当に数十人というレベルなのだろうな。


 3.については、少しだけ進展があった。ゲルマニアへの対応の為にマース領に張り付かせていた警備隊のメイジの代わりに、王軍を一部駐在させることで、警備隊の団員を錬金隊に回すことが出来たのだ。

 もう1つ面白い話があった、これは以前セレナが教えてくれた?亜人の出現周期の件だ。単なる経験則だったのだが、兵団本部に蓄えられた討伐依頼を集計させた所、確かに周期らしき物が確認されたのだ。例えば、殆ど一年毎にオーク鬼が現れる森が実際にあったし、似たような傾向は色々な場所で見られた。

 中々引退できない兵団長のマティアスの手で、調査はもう一歩突っ込んだ形で行われていた。さっきの毎年オーク鬼が現れる森に大規模に警備隊の団員を送り込んで。どうして毎年オーク鬼が現れるのかを大規模に調査したのだ。そして、私は偶然”その場面”に出くわした団員の話を直接聞く事が出来た。


===


「警備隊第11班の班長を任されているマルコと申します!」


「ご苦労様、マルコさん。忙しいでしょうに、態々王都(トリスタニア)まで来ていただいて感謝します」


「いいえ、事が事ですから、レーネンベルク公爵様にも直接報告させていただきましたし、王国に報告するのも当然と思っております」


「父にも言われたでしょうが、僕にも敬語は不要ですよ」


「はぁ? 殿下は王族でしょうに」


 兵団員にまで心配されてしまうのだな、公私の切り分けはしっかり・・・、してないが必要な時はちゃんとしてるはずだぞ?


「この場は、公的なものではありませんからね」


「分かりました、そうさせていただきますよ。ラスティン様」


「では、オーク鬼が出現した場面の事を詳しくお願いします」


「それは、調査に森に入って4日目の夕刻でした。明日には補給の為に一度本隊と合流する予定だったんですが、その日は思い切って担当範囲より広めに班員を配置していたのが幸運だったんでしょうね。急に班員の1人が、私の所にやってきたんです」


 その時の事を思い出したのか、少し興奮気味なマルコさんだった。


「その班員に引っ張られる様に問題の場所に向かったんだが、そこには銀色の鏡の様な物が浮かんでいたんだ。最初は何だか分からなかったんだが、明らかに魔力の流れを感じた。ただ、呪文を唱えているメイジは何処にも居ないっていう奇妙な現象だったんだがね」


「銀色の鏡?」


「そう、少し違うが、サモン・サーヴァントの時のと同じだと感じたね。班員を集めて観察を続けていると、オーク鬼が本当にそこから出てきたんだよ」


「そうですか・・・」


「まあ、オーク鬼ごときは直ぐに退治したんだが、その後もう一匹オーク鬼が出てきたんだなこれが。油断とは言わないが不意をつかれて久々にウチの班から負傷者を出しちまった」


「それはおかしい話ですね。誰かが召喚したのなら、一匹出た時点で閉じるはずだし、そもそも召喚者のメイジは居なかったんでしょう」


「銀色の鏡が無くなった後、周囲を隈無く調べたが、怪しいものは無かったぜ。それこそ地面も掘り返したがね。直感だが、あれは人為的な物ではなく、なんかの自然現象或いは、自動的なものって感じがしたな」


「・・・、非常に興味深いですね?」


「だろ? もし来年同じ日の同じ場所で、銀色の鏡が現れてオーク鬼が召喚、いや、勝手にやってくるかな?としたら、警備隊としては大助かりなんだよな」


 それはそうだろうな、やってくるという表現が正しいかは分からないが、その時期と場所が特定出来れば、待ち伏せなり罠をかけるなりやり放題だしな。やってくるというならば、時には来ない場合があってもおかしくないし、場所によっては周期的に見えない場所も実は人知れず周期的に”ゲート”が開いているのかも知れない。(ただ、何もやって来ないだけだったりするのだろうな?)


「おっと、これは失礼しました、殿下」


「構わないと言った筈ですが? それより貴重な調査結果を教えていただきありがとうございます」


「いいえ、これも兵団員として、そして、トリステインの国民として当然の結果です」


===


 マルコさんからの報告は以上だったんだが、マティアスは既に周期と場所の特定を警備隊に命じているそうだ。マルコさんを見送った後、一緒に話を聞いていたキアラに意見を聞いてみた。


「根本対策は難しそうですね。対策も問題無さそうですし、この件はマティアス様に任せれば良いのでは? ただ、警備隊から人員を引き抜いて錬金隊に移す事は可能ではないでしょうか?」


「そうかな、様子を見ながらになるだろうがな」


「罠等なら兵団員である必要させないでしょう?」


「それもそうかあ、マティアスに指示を出しておくかな。だが、まだ足りないだろうな」


「そうですね、ハルケギニア全土に工業品を供給し続けるのは、容易な事ではないでしょう」


 あの話は、キアラにもまだ話していないのだが?(まさか、ノーラが話すとも思えないし)


「何故、ハルケギニア全土なんだ?」


「ラスティン様の最近の行動を見ていれば分かります。奥様もラスティン様が潜入部隊との打ち合わせの後何をしているか気にしている様ですよ?」


「何のことかな?」


 ノーラは仕方ないにしても、キアラまでこっそり魔力補給用の”シフの涙”を作製しているのに気付いているらしい。さすがに誤魔化せないかな?


「ラスティン様の性格では仕方ないかもしれませんが、いきなり離婚っていうのは外聞が悪いですよ?」


「な、やることはやっているはずだけど・・・」


「そうみたいですね」


「お前な!」


「無理だけはなされないでくださいね?」


 本当に心配そうに、キアラが言った言葉が胸に響いた。


「そうだな、ありがとう」


「はい!」


 さて、妙な雰囲気になる前に仕事に戻るとしようか? まだ、見落としている事があるかも知れないしな。

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