第4話 ラスティン5歳(笑顔の悪魔)


「レビテーション!」

「レビテーション!」

「レビテーション!」


 こんにちはラスティンです、なぜしょっぱなから呪文を連続して唱えているかというと、絶賛落下中だからです。前世的には、俗にいう紐なしバンジーですね。とこんな無駄なことを考えていると、


バシャーン


 湖にかなりの速度で飛び込むことになってしまいました。何故こんなことになっているかというと昨日まで時を遡ります。


===


 先日と同じ応接間にマクスウェル先生が案内され、コモンマジックの練習となりました。まずは前回の復習と言うことで、ライトを唱えてみます。復習の甲斐あってすんなり明るい光の玉が杖の先に生まれます。


 それを見た先生は満足そうに頷くと、


「ライトはもう問題が無いようだの、今日はレビテーションの呪文練習をして見よう、呪文は予習してあるかの?」


「はい!”万物を束縛する力から我を解き放て、レビテーション”ですね」


と答えると、


「まずはこの本を浮かせて見よう、本が浮いているのをイメージしながら、少しずつ魔力を注ぎ込むんじゃ」


「”万物を束縛する力から我を解き放て、レビテーション”」


 先生が言うとおり、本が浮かぶのをイメージしながら魔力を注ぎ込んでみると、ふわりと一瞬本は浮かび上がったけど、すぐにテーブルの上に落ちてしまいました。


 先生は笑いながら、


「まだまだ、魔力の制御が甘いのう、本の下面全体に魔力を這わせる感じでもう一回やってごらん」


と助言をしてくれた、魔力を本の下面全体に行き渡らせるようにしてもう一度トライです。


「”万物を束縛する力から我を解き放て、レビテーション”」


 今度はうまく浮かんだようです、やや不安定ながらそれでも机の上20サント辺りをふわふわしています。うんいい感じだと思っていると、先生が突然本の上にティーカップを置きました。ちょっとふらつきましたが、なんとかカップを落とさないようにレビテーションを維持することができました。


 そのまましばらくレビテーションを維持していると先生が、「もういいぞ」というので本をゆっくりテーブルの上に着地させます。


「大分魔力の放出量が増えてきたみたいじゃな、次はこの椅子にレビテーションをかけてみなさい」


 言われた通り、応接間の結構重そうな(そして高級そうな)椅子にレビテーションをかけてみます。本と違って平面ではないので、何処の魔力を這わせるか迷いましたが、椅子の下側全体をイメージして魔力を這わせるとちょっと負荷を感じましたがうまく浮き上がりました。


「よしもういいぞ」


という先生の合図で、椅子を床に降ろします。


「それは次は自分の体にレビテーションをかけてごらん」


 とうとう、空中浮遊なんですね、わくわくします。さっきの椅子と同じで、体の下側に魔力を這わせる感じで、


「”万物を束縛する力から我を解き放て、レビテーション”」


 ずっしりとした手ごたえと共に、僕の体が宙に浮きます、すごい。しばらくこうしてふわふわ浮いていると、だんだん気分が悪くなってきた。なんかちょっと吐きそうな感じです。この感じはまさか乗り物酔い?すると先生が、


「顔色がよく無いですな、気分でも悪いのですかな?」


と聞いてきた。レビテーションを解除して、地面に足を着けると大分楽になりました。


「先生すみません、酔ったみたいです」


「レビテーション酔いですかな?なるべく遠くを見るようにするといいそうだが、今日の授業はここまでにしておく。無理をしないで今日は休んでおくことじゃな、次の授業は明日じゃ」


「はい、ありがとうございました。」


 今日は早めに休むことにしましょう。


===


 そして翌日、僕は先生に連れられて、屋敷の近くにある湖にきています。小高い丘の近くまでやってくると、先生は足を止めました。


「先生、ここになにかあるんですか?」


「ん?ここはな昔ワシがレーネンベルクにお仕えしていた頃、夏の暑い時に屋敷の警備の合間をぬってここで水浴びをしていたんじゃよ」


と先生は、崖から下を懐かしそうに眺めていました。僕も気になったので先生の横から下を覗いてみます。

 高いな?、10メイル位はあるかな?、と思っているといつの間にか後ろに回った先生がトンと僕の背中を押した。


「わあぁぁ??!」


バシャーン


 あっけなく湖に落ちてしまった僕、またやられた。崖の上を見上げると、先生がレビテーションでゆっくり降りてくるところでした。近くの岸辺に降り立つと先生はニヤリと笑いながらこういいました。


「どうしたラステイン、折角覚えたレビテーションの呪文一言も唱えられなかったじゃないか?」


「くっ!こういう人だと分かっていたのに、まんまと策に嵌るなんて」


「おお!悔しそうじゃな、そうだ再戦の機会をやろう」


 先生はそう言ってレビテーションの呪文を唱えると、僕を水面から持ち上げ始めた。どんどん空中に浮き上がっていく、さっきの崖より更に高い所まで浮き上がった所で浮上は止まった。下を見るとものすごく高いところに浮いているのが実感できます。はっきり言ってかなり怖いです。


「ラスティン用意はいいな?」


 僕の返事を待たず、先生はレビテーションを解除しました。ここで冒頭のシーンに戻る訳ですが、無理ですあんな高いところから落とされて暢気に呪文なんて唱えていられません。


「おいおいラスティン、ちゃんと呪文を唱えないと魔法は発動しないぞ!もう一度じゃ」


 再びレビテーションで浮上させられます。悪魔だ、悪魔が笑っている、笑顔を浮かべている先生を見て思わずそう思ってしまった。


「ラスティン、下を見るんじゃない、周りの風景に目をやってみろ、湖と空の青そして後ろに広がるレーネンベルクの山々の緑、素晴らしい景色だと思わないか?」


 そういわれて周囲を見渡してみると確かに絶景です。吸い込まれるように景色に見入っていると今の状況が気にならなくなります。


 そんな時急に、浮遊感が無くなり落下し始めたのが感じられます。でも、今度はいける、


「”万物を束縛する力から我を解き放て、レビテーション”」


 すると落下速度が段々遅くなり、やがて停止しました。


「高所に不安定な状態でいるということは、人の恐怖心を呼び起こす。だが少し目線をかえるだけでまったく別のものが見えることもある、覚えておきなさい」


「はい、先生!」


「今日は少し無理をさせたから、これで授業は終わりじゃ、こちらに降りて来なさい」


 先生の近くに降り立つと、先生が火の呪文で服を乾かしてくれた。


「風邪でも引かれたら、給料が下がってしまうかもしれないからな」


 先生は照れながらこう言った。それから二人肩を並べて屋敷まで帰るのでした。

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