第5話 ラスティン6歳(老師の後姿)

 マクスウェル先生に師事してから、ほば一年が過ぎました。


 そうそう、マクスウェル先生のことは師匠と呼ぶことにしました。どう考えても、座学の時間より実技修行の時間の方が多かったですから。(さすがは超実践主義)


 スリープの呪文が効くまで猛犬をけしかけられたり。

(実は人を噛まない様にしつけられた師匠の愛犬でした)


 ブレードの呪文で斬り合いをして傷だらけにされたり。

(あの時は母上がすぐに怪我を治してくれたけど、そのまま師匠の所に殴りこんで大騒動になりました)


 フライの呪文で飛び回りながら森の中を追いかけっこしたり。

(ゲーム感覚だったけど、木に激突して脳震とう起こしたのはシャレにならなかったです)


 オリジナルのロック呪文で部屋に閉じ込められたり。

(ディテクト・マジックで術式を解析しないと出られませんでした、事前に大量のお茶を飲まされていたのでピンチでした、必死で解呪しましたよ)


 パラライズを屋敷中にかけた時は一斉に皆を行動不能にしたり。

(皆笑顔で許してくれました、ちょっと顔が引きつっていた気がしましたけど)


 コンフュージョンの時は、今度も屋敷中にかけて皆が一斉に踊りだしたり。

(今度は本気で怒られた、でも指示した師匠ではなく僕だけが怒られたのは納得いかないです)


 フィックス(固定化)の呪文の時は、ベニヤみたいなちゃちな盾だけ渡されて、本物の剣で切りつけられたり。

(はっきり言って殺されるかと思いました)


 等々、この一年で沢山のコモンマジックを習得しました。(本に載っていなかった物まで)

 そして今日修行の最後に師匠が突然こうおっしゃいました。


「ラスティン、突然だが今日で修行は終わりだ、ワシがもうお前に教えることは無くなったこの一年良く厳しい修行に耐えたな、明日からは系統魔法の勉強を始めるがいい公爵には既に話を通してあるからな」


 突然のことに呆然としている僕に、師匠は優しく、


「お前は優秀な弟子だったぞ、たった一年で、ワシが知る限りのすべてのコモンマジックを習得したんだからな、これからもこの経験を生かして立派なメイジになるんじゃぞ!」


と言ってくれました。


 僕は何だか胸が一杯になって何を言ったら良いのか分かりませんでした。


「コモンマジックの復習も忘れるなよ、それではな!」


と言って部屋を出て行く師匠に、僕は頭を下げて大声で、


「ありがとうございました!」


とだけ言うことが出来ました。


 師匠は振り向きもせずに出て行ってしまいました。僕はその後姿をただ見ているだけでした。


===


 その日の夕食の時、父上から修行の話が出ました。


「マクスウェル先生の修行が終わったそうだな、しかしたった一年でコモンマジックを修めてしまうとはな、マクスウェル先生も驚いていたぞ」


「師匠の教え方が良かったんですよ、すごく勉強になりました、系統魔法も師匠から習いたい位です」


「マクスウェル先生は系統魔法は不得意だからな、4系統ともぎりぎりドットクラスの実力だそうだ、系統魔法はやはり専門の先生に教わるべきだ。先生も、もう年だからな、無理を言ってはいけないよ」


「はい、わかりました父上、それで系統魔法の家庭教師の先生はどんな方なんですか?」


「一応皆トライアングルの方たちに、家庭教師を頼もうと思っている。先ずは得意系統をはっきりさせなくてはならないから、4系統すべての家庭教師を手配する。水系統はリリアが直接指導してくれるそうだぞ」


「え?母上が!ノリスの世話は良いんですか?」


「ええ、ノリスも大分手がかからなくなってきたから、週に1日位ならメアリに任せても大丈夫でしょう、その代わりビシビシしごいちゃうわよ!」


「お手柔らかにお願いしますよ、母上」


「はいはい、明日からはとりあえずルーンの勉強をしましょうね、リッチモンド、書庫からルーン文字に関する本を出しておいてね」


「はい、奥様」


 明日からはルーンの勉強か、僕の得意な系統魔法って何かな?普通なら、父上の土か、母上の水がありそうだけど、土系統で錬金がしてみたいな!早くルーンを覚えて系統魔法の実習に入りたい、うん頑張ろう!


===


 翌日からルーン文字の勉強を始めました。こちらのルーン文字はかなり複雑で全ての文字と発音を覚えるだけでも一週間かかってしまいました。

 後はこのルーンを組み合わせて行くだけで、系統魔法が唱えられるらしいです。書庫にあった土系、水系の呪文を覚えていると父上が各系統魔法の家庭教師が決まったと教えてくださいました。


土を、アルノー先生

水は、母上

風を、ファブリス先生

火を、セザール先生


がそれぞれ担当してもらえることのなったとのことでした。

 来週から週に一回授業を受けることになりました、授業がたのしみです。


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