第2話 ラスティン5歳(杖契約)

今日はやっと杖契約の日です、杖契約には父上が立ち会ってくれるそうでとても嬉しいし、少し安心です。庭に出ると、父上が一本の杖を見せてくれた、これが僕の杖らしい。父上によると、


「200年物のアリエの木の杖で一級品だ、お前に相応しいものだよ!」


らしいのだけれど僕にとってはプレッシャー以外の何者でも有りませんでした。


 早速杖との契約を始めることになったんですけど、原作では杖との契約には詳しく触れられていなかったから、どんな感じになるんだろう?

そう思って尋ねると父上は、


「ただ杖に心の中でで話しかければいい、杖が答えてくれればそれで契約は完了だ。だが契約には一週間かかることもあるから気長にやる事だな」


と笑いながら教えてくれた。そして僕を庭の東屋の椅子に座らせると、杖を渡してくれた。


「これが僕の杖なんだ」


見かけは25サント程の長さで、太さは直径3サント程、木材としては見かけより重いのはさすがに良い素材なのだろうと納得させられます。


「父上、杖に名前をつけても良いのですか?」


 父上は笑いながら、


「杖に名前?あまり聞かない話だが構わないだろう」


と答えてくれたので、まず名前を考えることにする。うーん、何かいい名前はないかな?と考えているとふと頭に”ニルヴァーナ”という名前が浮かびました。


「良し、これからお前はニルヴァーナだ、よろしく頼むよ!」


と話しかけると、父上は笑いながら、


「杖に名前をつけるのは良いが、話しかけるのはちょっと変だぞ」


と言って来た。ぼくもさすがにこれはちょっとと思ったが、こういうことは思い込みが大事だと思って黙っていました。


「もう一度言うぞ、心で杖に話しかけるんだ、杖が答えてくれれば契約は成功だ、何か質問はあるか?」


 杖が答えるというのが分からなかったので、父上に尋ねてみると、


「それは人それぞれだからな、私の場合は杖が細かく震えて答えてくれたよ。聞いた話では、杖が暖かくなったり、光ったりしたらしい。もういいか?では始めてみなさい」


「はい」


と僕は答えると、杖に心の中で話しかけてみた。


『ニルヴァーナ答えてくれ!』


 しばらく念じてみたが、杖からは何の反応もありませんでした。落胆していると、父上が苦笑しながら、


「杖契約には1週間はかかるといっただろ?焦らずに肩の力を抜いて気長にやるんだな、では私は仕事をしてくるからな」


と言って屋敷へ戻っていってしまいました。


 僕は心の中で繰り返し、『ニルヴァーナ答えてくれ!』と念じ続けた。そうするとだんだん時間の感覚が無くなっていき、周りの状況もまったく気にならなくなって行きました。これが無我の境地と言う奴かな?


 それからどれ位の時間が経ったでしょう、


「おぼっちゃま、そろそろ夕食の時間ですが?」


と話しかかられ、急に現実に引き戻されたました。前を見るとリッチモンドが申し訳なさそうに立っていた。


「もうそんな時間なんだ、今日はここまでだね」


 そういいながら、リッチモンドと一緒に屋敷に戻っていくのでした。夕食の席で父上から、


「契約はどんな感じだった、切欠はつかめそうか?、ずいぶん集中してたようだな、リッチモンドが昼食に呼びにいっても反応がなかったらしいではないか。」


と聞かれたので、


「わかりません、なんだか杖に集中のし過ぎたせいで自分が自分ではない感じがしてしまいました。」


と答えるしかありませんでした。父上は、


「杖に集中することは大事だが、自分の意識を手放してはいけない、自分は自分としてしっかり意識を持っていないと、契約にならないからな、意識を手放さない様に注意しなさい」


と助言をしてくれた。疲れたので今日はこのまま休むことにしましょう。


 翌朝、昨日と同じく庭の東屋の椅子の椅子に腰掛け、杖に呼びかけを始めます。


『ニルヴァーナ答えてくれ!』


 昨日とは違い、自分自身を意識しながら、杖の答えを待ってみました。すると、


『・・・ますか?』


 うん?何か聞こえたような気がしたけど?そう思って耳をすますと、


『わたしの声がきこえますか?』


 おお!確かに聞こえます。何の声だろう?もしかして杖の声?そう思って心の中で答えてみました。


『聞こえるよ、君は誰だい?』


『あ!やっと声が届いた、私私はあなたの持つ杖に宿る木の精霊です。名前は持っていませんでしたがあなたにニルヴァーナと名付けられました。昨日から呼びかけているのに反応が無かったので、もしかして聞こえないのかと心配しましたよ』


と杖から答えが返ってきました。昨日は意識が飛んでしまっていましたからね。


『じゃあニルヴァーナ、君は杖の精霊ということになるんだね?』


『はい、私は樹齢250年ほどのアリエの木の精霊でしたが、今はその一部だけが杖に宿って名前が付けられたことで自我が目覚めました、杖の精霊といってもいいかもしれません』


 そういうことですか、一応杖の精霊なんですね、じゃあ契約しなきゃ。


『ニルヴァーナ、君と杖契約したいんだけどいいかな?』


『契約ですか?もう半分済んでるんですが、それではあなたのお名前を教えて頂けますか?』


『僕の名前?ラスティン・ド・レーネンベルクだけど、ラスティンと呼んでくれていいよ』


『はい、分かりましたラスティン、これで契約終わりましたよ』


 早っ!、ていうかこれで終わり?


『ニルヴァーナ、これで契約したことになるの?』


『はい、精霊にとってお互いの名前を交換することが契約の条件ですから、杖の精霊でも変わりませんよ』


『分かったよ!ニルヴァーナ、これからもよろしくね』


『こちらこそよろしく、ラスティン』


 良し!これで杖契約は終了ですね、言われたより全然早かったな、早速父上に報告に行きましょう。父上は執務室かな?


「父上、杖契約できました!」


 案の定、父上は執務室で事務仕事をしていました。


「もう出来たのか、私の息子は優秀だな!で杖からはどんな答えがあったんだい?」


と聞かれたのでさっきニルヴァーナと話したことをそのまま話しました。


「杖の精霊か、もしかするとリリアの血かもしれないな、モンモランシ家は水の精霊との盟約の交渉役を勤める位だからな。そうすると杖契約が簡単に終わったのは、お前の才能ではなく杖が優れていたのと血のおかげと言うことになるな、慢心せず魔法の修行に励むんだぞ!」


と僕の頭を撫でながらそう結論付けた。ああ、そんなはなしもありましたね、たしか干拓に失敗してなんとか、そうか別に僕が特別優秀って言う訳ではないんですね、安心したというかちょっと残念というか微妙な所です。


 そう思っていると父上が困った顔でこんなことを言いました。


「しかし困ったな、こんなに早く杖の契約が終わると思っていなかったから魔法の家庭教師の手配がまだ済んでいないのだが」


「魔法なら家来の誰かに教えて貰えばいいのではないですか、父上?」


「いいや、最初に魔法を使う時には細心の注意を払わなくてはならない、魔法の制御に失敗すると怪我をしたりすることもあるそうだからな、仕方ない家庭教師の手配が済むまでは書庫にあるコモンマジックの本を読んでおきなさい。書庫に入ることは許すがくれぐれも勝手に魔法は使うなよ」


「はい分かりました、父上!明日からはコモンマジックの勉強頑張ります」


 こうして、杖契約は成功したけど、魔法を使うのはお預けになってしまったのでした。

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