みっつの鳴き声

 ほどなくして、ツバメの巣は賑やかになった。目視で確認できるだけで、4羽の雛が産まれ、ひっきりなしに親鳥が餌を運んでいた。仕事をしていると、窓の外を何度もツバメの夫婦が行き交いし、雛が餌をねだる声が定期的に聞こえていた。


 雛の声というと、ピヨピヨという高くて可愛らしい声を思い浮かべる人も多いと思う。でも、実際のツバメの雛の声は低い。ジジジジジと、なんとか餌を貰おうという必死さを感じさせる声で一斉に鳴く。その声は、可愛いというよりは、渋い。


 むしろ高い声で鳴くのは、親鳥の方だ。そのなかでも、ピキュン、ピキュンとアラームのように甲高く鳴く場合は、カラスや猫などの危険が迫っている際の警戒音だ。この声が聞こえると、思わず窓の外を見てしまう。あるとき、あまりに長くピキュンピキュンが続くので心配になって玄関を開けると、ご近所の猫が気持ちよさそうに昼寝をしていた事もあった。


 ジジジジと、ピキュンピキュンの他にも、もう一種類の鳴き声がある。鳥の鳴き声やさえずりりとして、普通に想像するような声だ。チュッチュクチッチッとお喋りするように鳴き、時々、ギギとゼンマイを巻くような音を立てる。ギギはだいたい囀りの最後に付く。その様子が、無線で通信しているときに最後に「どうぞ」と付けているように思えて、なんだかおかしかった。


 今まで私は、ツバメはおろか、鳥の鳴き声を気に留めた事はなかったが、いろいろな種類がある事に驚いた。身近なものでも、ちょっとした関心のあるなしで、こんなにも気づく事の量が違うんだなあ。なんて思いながらポーチの上の糞を履いていていると、上からまたポトリと糞が落ちてきた。にゃろうめ。迷惑だが可愛いから許す。


 ちなみに、雛の糞は、よく車や窓にべちゃっと貼りついている、いわゆる鳥の糞とは違い、カプセルに包まれたような状態になっている。どちらかというと、ころころしていて掃きやすい。なんでも、巣の中で糞をしても、巣がベチャベチャにならないようにカプセル化して排出し、それを親鳥が拾って巣の外にポイポイと捨てるシステムになっているらしい。小さいのに、うまい事やってるのだ。自然って凄いなあ、そんな事を思いつつポーチを掃除していると、また上からポトリと落ちてきた。

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